TORENDIA
現代能書批評
北大路魯山人
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まえがき
人の価値は、厳密にいえば、棺を覆うて始めて決まる。だから人を批評せんとならば、その人が棺を覆うてからでなければ完全な事はいえない。殊に互いにこの世にあるうちは、兎角無益な感情に囚われて正しい認識を得がたいものである。天才の作品が時代と共にその光を増して、在世中は殆ど顧みられなかったようなものが、後年に至って次第に認められ、ついに確乎不動の価値を得て、至上の地位に据えられる例の多いのは、主としてこの理由による。
しかしながら、作品の価値は、その作品の生まれた時から既に賦与されているのであって、後に付加されるものではない。ある傑作の価値が後代に至って始めて認められたとしても、それは始めから内在しているのであって、それが認められないというのは、認める人がないからである。おぼろげにその価値が解るような人でも、在世中はとかく、有情の色眼鏡に惑わされるからである。
そういう意味で、現代の人物の作品を完全に批評するということは、なかなかむずかしい。だがこれは眼のある人には不可能なことではなかろう。但し多くの人はそれをやらない。書についていえば、過去の人で既に一定の評価を与えられている人の書は云々するが、現代の書を簡明直截に批評するものは殆どない。彼等は悧巧だから、敢えて自己の不明を暴露するような危険のある仕事をしないのであろう。
私がそれをやって行こうとするのは、しかし、あえて人のやらないことをやろうとする稚気からばかりではない。これによって、書に対する観賞の力を養う一助ともなればと思うからである。
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