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TORENDIA

世之助の話

本文約6,400字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

伊豆から女護ヶ島へ渡る直前の名残の酒宴で、世之助は三千七百四十二人の女性と戯れたという噂の真偽を友人に問われる。世之助は自身の経験を語り始め、かつて江戸へ下った際に角田川の渡し舟で同乗したある女房との出会いを披露する。狭い舟内で互いの膝が触れ合うという一時の接触を通じて、独自の愛惜の感覚を抱いた経緯を語り、その経験も数に含めていると明かすことで、自身の人生観と女性遍歴の真相を伝える。

芥川龍之介

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🎧 世之助の話 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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上

友だち 処でね、一つ承りたい事があるんだが。

世之助 何だい。馬鹿に改まつて。

友だち それがさ。今日はふだんとちがつて、君が近々に伊豆の何とか云ふ港から船を出して、女護ヶ島へ渡らうと云ふ、その名残りの酒宴だらう。

世之助 さうさ。

友だち だから、こんな事を云ひ出すのは、何だか一座の興を殺ぐやうな気がして、太夫の手前も、聊恐縮なんだがね。

世之助 そんならよせばいいぢやないか。

友だち 処が、よせないね。よせる位なら、始から云ひ出しはしない。

世之助 ぢや話すさ。

友だち それがさ、さう中々簡単には行かない訳がある。

世之助 何故?

友だち 尋く方も、尋かれる方も、あんまり難有い事ぢやないからね。尤も君が愈いいと云へば、私も度胸を据ゑて、承る事にするが。

世之助 何だい、一体。

友だち まあさ、君は何だと思ふ。

世之助 ぢれつたい男だな。何だつて云へば。

友だち いやさう開き直られると、反つて云ひ出しにくいがね。つまり何さ。――この頃西鶴が書いた本で見ると、君は七つの時から女を知つて……、

世之助 おい、おい、まさか意見をする気ぢやあるまいね。

友だち 大丈夫、叔父さんがまだ若すぎる。――そこで、六十歳の今日まで、三千七百四十二人の女に戯れ……

世之助 こいつはちと手きびしいな。

友だち まあさ、三千七百四十二人の女に戯れ、七百二十五人の少人を弄んだと云ふ事だが、あれは君、ほんたうかい。

世之助 ほんたうだよ。ほんたうだが、精々お手柔かに願ひたいな。

友だち それが、どうも私には少し真にうけられないんだね。いくら何だつて君、三千七百四十二人は多すぎるよ。

世之助 成程ね。

友だち いくら君を尊敬した上でもだよ。

世之助 ぢや勝手に割引して置くさ。――太夫が笑つてゐるぜ。

友だち いくら太夫が笑つてゐても、この儘にはすまされない。白状すればよし、さもなければ、――

世之助 盛りつぶすか。そいつは御免を蒙らう。何もそんなにむづかしい事ぢやない。唯、私の算盤が、君のと少しちがつてゐるだけなんだ。

友だち ははあ、すると一桁狂つたと云ふ次第かい。

世之助 いいえ。

友だち ぢや――おい、どつちがぢれつたい男だつけ。

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