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TORENDIA

三等車の中(スケッチ)

本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

満員の三等車に乗り込み、郷里へ向かう夜汽車の中の情景を綴る。夜学で知り合った連れの男、傍若無人に振る舞う肥満体の男、乳を飲ませる母親やあやす女教師など、乗り合わせた人々の雑多な様子を観察する。車内の照明や外の暗闇、降り続く雨という閉塞感のある空間の中で、眠りに就く乗客たちの滑稽な姿や、窮屈な服装の女性を見て抱く諦念、あるいは人生に対する退屈な感情を、車窓を流れる景色とともに淡々と描写する。

中原中也

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🎧 三等車の中(スケッチ) / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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疲れてゐるのに眠られぬ。車室の中は満員である。棚の上もトランクや土産物で一杯である。

僕の連れの男は僕の丁度直ぐ前の席に、もう先刻から眠つてゐる。汽車が東京を出発してから、二タ言三言言ひかはしたばかりである此の男は、節野と云つて、外国語学校の夜学で知合ひになつた男である。午後の五時から七時までのその夜学では、生徒は勤め人かそれとも他の学校に席を有してゐるものであり、如何にもみんな一寸顔を出してゐるといつた気持で来てをり、二年間一緒の教室にゐて、一度も話を交はさずに終る男もあるのである。僕と節野とは、教室で可なり口をきき合つたのであり、一緒に酒場なぞにも行つた男であるが、それでも彼の昼間通つてゐる日本大学の同級生が其の場に来合せたりすると、その方が主になるのである。無論僕は、愉快な男といふのでもないから、さうなるのでもあるけれど、なんとなくその夜学といふのは、妙に互ひにそはそはした気持でゐる所であり、其処での知合ひだといふことが僕達を打解けさせない大きい理由のやうに思はれるのであつた。僕達は今卒業して、二人ともそれぞれの郷里に帰つてゆく。随分愛想のいいその男が、汽車に乗るや間もなく眠つてしまつたことは、なんとなくその夜学二年間の総計のやうな気がされて淋しいやうでないこともない。

汽車が箱根を越える頃、降りやんでゐた雨は再び降り出して来て、窓硝子の上に斜めの線を引きはじめた。乗客の三分の二はもう眠りに就いてゐる。手拭を顔に掛けたり、外套をかぶつたりしてゐるそのいぎたない風景の上に、電燈は明々と明つて、幾つもの仕切板の角々のあのラックの光沢に反射してゐる。

窓の外は真つ暗で、硝子に額をすり寄せて見ても森と空との境界も漸く見分けられるくらゐであつた。

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