家族
本文約670字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
東の空の紫色の雲の中に住まう一家の、穏やかな朝の営みを綴る。掃除熱心なお婆さん、鏡台で髪を結うお母さん、そして咳払いで家中に活気をもたらすお父さんが、それぞれの日課に従い一日を始める。やがて子供は学校へ、お父さんはお役所へと向かうが、それらがどこに存在するのかは雲の中のことで定かではない。時が流れ、自らが親となった時にその存在の真実を悟るという、家族の日常と時間の経過を詩情豊かに描き出す物語である。
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朝な朝な、東の空の紫色の雲の中に、一つの家族がありました。
まづお婆さんが目を覚まし、家中のお掃除を始めます。恰度その時女中は台所で、竈の下を焚き付けてゐます。お婆さんはお掃除が好きで、大好きで、時偶女中がお掃除をしようものなら直ぐまた自分がやりなほすといふふうでした。といつてこのお婆さんは、何もそれ以上に邪慳だといふのでもなく、六ヶ敷屋でもないのでした。さういふわけで、朝な朝な、此のお家では箒の音がする時に、台所では竈の中で、とろとろと火が燃えてるのでありました。
間もなく此の家のお母さんは目を覚まして、鏡台の前で髪を結ひます。子供は床の中で目を覚まして、その鏡台のある隣りの部屋で、お母さんが頭の生地を綺麗にするために使ふ布が、小さな金盥の中の熱いお湯に漬けられては絞られる時の、お湯の滴の音を聞いてゐます。やがてお父さんが目を覚まして、咳払ひや煙草盆の音を立て始めると、急に家中活気を呈して来ます。空をわたつて行く烏の啼声までが、急にテムポを速めるやうに思はれました。
やがて歯をみがいて、御飯を食べて洋服を着ると、子供は学校に、お父さんはお役所へ行くのでありました。
さてその学校が何処にあるやら、そのお役所が何処にあるやら、それは雲の中のことで分りません。
だが、朝な朝な、東の空の紫の雲の中に、此のお家があるといふことは確かで、皆さんが、やがて大きくなつて、皆さんのお父さんも亡くなり、お婆さんは云ふに及ばず、お母さんも亡くなつて、皆さんが今度はお父さんになつた時には、それがほんとだと分るのです。
(一九三四・一一・一五)
完