TORENDIA
黒部川を遡る
木暮理太郎
TORENDIA
黒部川を遡る
本文約21,500字 ・ 読了時間 約44分
あらすじ(AIが作成しました)
大正八年、黒部峡谷の秘境探査を志した著者と友人は、案内人の佐々木助七らと共に下廊下の探究へ向かう。しかし、綿密な調査不足や認識の甘さから行程は難航し、案内人との確執や険しい地形に翻弄されることになる。本作は、入念な準備を欠いたまま未踏の地に足を踏み入れた登山者たちが、自然の猛威と向き合いながら黒部川を遡行していく様子を描く。
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はしがき
我国の一大峡流である黒部川の全貌が完全に世に紹介されるに至ったのは、誰が何と言っても、これは立山後立山両山脈の山々と其抱擁する谷々とに限りなき興味を有し、就中立山連峰と黒部峡谷とを礼讃して措かざる冠君の数年に亘りて惓むことを知らない努力の結果であることは、動かす可からざる事実であり、又よく人の知っている通りである。されば纔に黒部の片鱗を窺い見たに過ぎない私などは、いつも之に対して感嘆久しうして止まないのであった。其当時はよく冠君の訪問を受けて、山の話に夢中になってしまった二人は、玄関に置いた靴や冠君の蝙蝠傘を盗み去られたことを、すぐ隣りの室に居ながら少しも知らずにいたことなどもあった。話の落ち行く先は大抵黒部ときまっていた。そして探検の度毎に同君の齎し帰る新しい黒部の秘境に聞き入りつつ私の心は躍った。しかし冠君のように時の自由を持たない私は、残念ながら同君と行を共にし得る機会は一回も無かったのである。
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