春の大方山
本文約7,500字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
木暮理太郎による本書は、南アルプスの展望を目的とした春の天子山脈最高峰への登山記である。富士の麓を巡り、歴史的な遺蹟や名所を訪ねつつ、自然の風景や天候の変化を詳細に記録する。特に山頂からの眺望や樹木に付着した霧氷の美しさを鮮明に描写し、併せて富士北麓の諸湖の様子や登山道での体験を綴る。執筆を通じて、自然観察の喜びと、山行における景観の魅力や現地の情景を詳らかに紹介する内容となっている。
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南アルプスの二、三の山が東京から望まれることが確実となったので、外にも尚お、遠い大井川奥の空から煤煙の都東京をこっそり覗いている山が或は有るかも知れない。夫を探し出すには東から眺めた山々の姿を眤と瞳の底に烙き付けて置く必要がある。この見地から農商務省出版の甲府図幅を拡げ、展望台として恰好と思われる山を物色して二つを選み出した、一は河口湖の東北に在る毛無山で、他は本栖湖の南に在る天子山脈の最高峰毛無山である。孰れも同名の山なので、互に区別する為に私等は東西を冠して呼ぶことにしていた。東毛無には既に同好の小倉君が登られて、無礙の眺望を恣にしたことを伝え聞いて居る。西毛無には未だ登った人が無いらしい。しかも東毛無よりは近く高いだけに、其展望は一層優れたものがあろうと想像して、裾野の春を賞しがてら、富士の麓を西から北に廻り、途中西毛無山に登って、夏には見られぬ多量の残雪に輝く南アルプスの大観に飽き、次手に岳北の四湖を眺め、青木ヶ原の一端をものぞいて見ようというので、四月八日の午後十一時に田部君と共に東京駅を出発した。四方に美しく発達した裾野の中でも、特に西側の景色が雄大であり変化にも富み、そこは又曾て最も壮烈な史的悲劇の行われた舞台でもあるから、其遺蹟を訪ねることは、一段と旅の興も加わることと思ったので、此方面から入ることにしたのであった。