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TORENDIA

雑魚図譜

本文約8,200字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

伊豆の温泉地で療養生活を送る物理学者が、漁港で水揚げされる多様で鮮やかな磯の魚に魅了される。魚の色彩や形態の美しさを観察し、自ら油絵の写生に挑む過程で、光の干渉現象や自然の神秘について考察を深める。本書は、北国の出身である著者が南国の食生活や自然を通じて抱いた感懐を綴り、日常の観察から科学的な視点や教育制度への思索へと展開する随筆である。

中谷宇吉郎

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私は昨年の秋から少し静養の意味で、伊豆のI温泉に仮りの住居を定めることにした。今まで北国の生活ばかりしていた私達には、初めて見る南国の冬が色々珍しい経験を沢山齎してくれた。高畑の蜜柑畠に日が映えて、雑木林が紫色に光るのも珍しかったし、冬の海に陽光が燦々と降っている景色も愉しかった。何だか周囲が天恵で満ち満ちているような気がして、半年を灰色の空の下で雪に埋れながら暮す人達の生活が遠い国のことのように思い浮べられた。

それらの天恵の中でも、この伊豆海岸の生活で自分に一番嬉しいことは、いつも鮮しい魚が得られしかもその種類が極めて多いということであった。この町は温泉地として有名であるにもかかわらず、実は今でも町全体の収入を見ると、温泉地としてよりも漁港としての方が多いという話である。それだけに町の姿にも全くの温泉街とは成り切れぬ処があって、微かに残っているその漁村の匂いが、落付いて住もうとする私達に何となく暮しやすいという感じを与えてくれるのであった。

私がここにしばらく滞在しようとした時に、医師の人から新鮮な魚を沢山喰べるようにと勧められた。もともと私は子供の時から北国の荒海近い田舎に育って、色々の磯の小魚に親しみを持って育ってきたのであるが、その後都会の生活をするようになってから久しくそのような自然の饗宴から遠ざけられていたのである。それで医師に勧められるまでもなく、私は大変喜んでこの南国の海の生活を十分に楽しみたいと思っていたのであった。

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