TRENDIA CLASSIC

入婿十万両

山本周五郎

1 / 13

「――浅二郎」

「はい」

「今日もまた家中の若い奴等が何か悪さをしたそうではないか」

矢走源兵衛は茶を啜りながら柔和な眼をあげて婿を見た。

「なに、つまらぬ事でござります」

「五郎兵衛が先だって練武堂へ誘い込んだうえ、厭がるものを無理に竹刀を持たせ、さんざんに恥辱を与えたと聞いたが――よく我慢をしてくれたの」

「どう仕りまして」

浅二郎は色白の顔に静かな微笑をうかべながら、

「いずれも腕達者の方々、かえって良き勉強をいたしてござります」

「そう思って忍んでくれれば重々じゃ。――馬鹿な奴等めが、深い仔細も知らず、その方がただ商家の出だと云うだけの理由で小意地の悪い事をしおる、ましばらくの辛棒じゃ、よろず堪忍を頼むぞ」

「御心配をお掛け仕り、私こそ申訳ござりませぬ……」

慎ましい婿の態度を、心地よげに見やりながら、ゆっくり茶を喫した源兵衛、やがてさりげない調子で、

「時にどうじゃ、娘は気に入ったか」

「……は?」

「娘不由、気に入ったかと申すのじゃ」

浅二郎はさっと眩しげに眼を伏せた。

「勿体のうござります、分に過ぎましたお言葉、私こそ御家風に合わぬと」

「はぐらかしてはいかん――浅二郎」

源兵衛は微笑しながら、「遠慮も良いが事と次第がある。分るか、ことに男女の仲というやつはそうだ、遠慮がかえって無遠慮になるという事もあるぞ」

「はい、――よく、承知いたしております」

「そうか、分っているならいい」

源兵衛は頷いて、「ではもう寝むがよい、今宵はその方たち夫婦の寝所を奥へ移させた、当分のあいだそうするからそのつもりでの」

「――それは又……」

「何も申すな、わしの計いじゃ、行け」

万事承知と云いたげな舅の笑顔を見て、浅二郎は返す言葉もなく部屋を出た。

困った事になったと思った。奥の間と云えば次間のない部屋である。どうでも不由と褥を並べて寝なければならぬが、――できる事であろうか。

山本周五郎の他の作品