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TORENDIA

赤ひげ診療譚

本文約21,100字 ・ 読了時間 約43分

あらすじ(AIが作成しました)

養生所の医師・保本登は、奇妙な言動を繰り返す大工の猪之を診察するよう師の去定から命じられる。登は猪之の身辺調査を重ね、彼が狂女の召使であるお杉に深い愛情を抱き、彼女を救いたいと願う純粋な動機を抱いていることを突き止める。これまで受身であった猪之が、一人の男として自立し、愛する人と共に生きようと切実な思いを吐露する姿を通じ、医師である登が病人の内面に触れ、その治療のあり方に向き合う過程を描く。

山本周五郎

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一

梅雨があけて半月ほど経ったころ、狂女のおゆみが自殺をはかった。まえにも記したとおり、彼女はお杉という若い召使と二人で、病棟から離れた住居にいる。それは彼女の親が新らしく建てたもので、窓には太い格子があるし、一つだけの出入り口には鍵が掛かる。ぜんたいが座敷牢のような造りになっており、召使のお杉はその出入りごとに、いちいち鍵を外し鍵を掛けるのであるが、その日、お杉が炊事場で夕餉の支度をしているあいだに、おゆみは窓の格子へ扱帯をかけて、縊死しようとした。

そのとき保本登は養生所にいなかった。彼はいつものように、新出去定の供をして外診に廻ってい、その時刻には神田佐久間町の、藤吉という大工の家で、猪之という男の診察をしていた。猪之はやはり大工で藤吉の弟分に当り、年は二十五歳だという。初め養生所へ頼みに来たのは、兄哥分の藤吉であった。

――ほかの医者はみんな気が狂ったというんですが、私にはそうは思えない、猪之とは頭梁の家で子飼いからいっしょだったし、頭梁の家を出たあとも、私が女房を貰うまでは、長屋の一軒でいっしょにくらしました。こうやって十年以上もつきあって来て、あいつの性分も癖もよく知っているんです。

だから気が狂ったなどとは信じられない。なにか病気があり、治す方法があると思う。ぜひいちど診に来て頂けまいか、と藤吉は熱心に頼んだ。去定は承知したが、急を要する病気が少なくないから、二三日のちにと約束をした。二三日というのが七日も経って、その日は呉服橋の近江屋という、商家の隠居を診にいったので、帰りに佐久間町へまわったのであった。

猪之は小柄な若者で、顔だちもきりっとしているし、いかにも腕っこきの職人、といった感じにみえたが、いまはぐあいが悪いからだろう、眼はとろんとして動きが鈍く、唇にもしまりがなく、去定に診察されていながら、診察されているということにも、はっきり気がつかないようであった。なにを訊いてもなま返辞しかしないし、だらしなくにやにや笑ったり、診察が終るとすぐ横になり、怠けたような声で、藤吉の妻に茶をくれと云った。

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