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TORENDIA

赤ひげ診療譚

本文約20,000字 ・ 読了時間 約41分

あらすじ(AIが作成しました)

小石川養生所で働く保本登は、妊娠したにもかかわらず男の名を明かさない娘おえいの対応を任される。診療所を運営する去定は、医学に仁術を求める登に対し、医学の限界を説きながらも、人間として向き合う姿勢を教える。様々な事情を抱えた患者が集う場で、登は医師としてのあり方を模索し、自身の進退を巡って去定と対峙しながら、この場所で医者として生きる意志を固めていく過程を描く。

山本周五郎

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一

十二月二十日に、黄鶴堂から薬の納入があったので、二十一日は朝からその仕分けにいそがしく、去定も外診を休んで指図に当った。保本登は麹町の家へゆく約束があり、去定から三度ばかり注意されたが、自分が出かけると、あとは去定と森半太夫の二人になってしまうため、なま返辞をするだけで、そのまま仕分けを続けていた。

午後二時の茶のとき、登は半太夫と食堂へゆき、いっしょに茶と菓子を食べた。そのとき半太夫はおゆみという狂女が危篤で、「もう十日とはもつまい」と告げた。いちじは気の狂う時間が短くなったが、ちかごろそれが逆になり、正気でいるときのほうが少なく、食欲も減退するかと思うと異常に昂進したりする。不眠が続き、発作が起こると暴れまわって、躯じゅうになま傷が絶えない。いつか縊死をしようとしたが、それから眼に見えて衰弱し、いまでは食事もとらず、意識もしだいに溷濁するばかりである、というようなことであった。

「父親というのが来たよ、昨日だったが」と半太夫は云った、「五十ばかりの痩せた、温厚そうな人だった、住所はやはり隠していたがね、――保本は先生から聞かなかったか」

登は頭を横に振った。

「ではいまでも先生だけしか知らないんだ」と半太夫は云った、「おれが会った感じでは、相当な大商人の、それも隠居といった人柄で、娘の話になると始めから終りまで涙をこぼしていた」

おゆみが狂った原因は、一人の手代のいたずらによるものだ。躰質もそうだったかもしれないが、三十男のその手代は、九つという幼ないおゆみにいたずらをし、「人に告げると殺してしまう」と威した。そんなことがあったとは知らず、ほかに不始末をしていたので、その手代は暇をだした。ずっと経って、おゆみに婿がきまり、その縁組が破談になったあと、おゆみのようすがおかしくなり始めたとき、初めてその事実がわかった。

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