御馬印拝借
本文約21,000字 ・ 読了時間 約42分
あらすじ(AIが作成しました)
三村勘兵衛は娘の信夫の婿として、縁戚の土田源七郎に家伝の古鏡を贈る。源七郎は先手組の番頭として出陣するが、戦場で河津虎之助と古鏡をめぐり対立する。その後、源七郎は戦死し、古鏡と共に虎之助へ宛てた手紙が勘兵衛のもとへ届く。手紙には自身に代わって虎之助を婿に迎えるよう記されており、信夫は源七郎の心意気を受け入れ、虎之助に鏡を渡すことを決意する。
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一
土田源七郎が来たという取次をきいて、三村勘兵衛はうんと頷きながら口をへの字なりにひき結んだ。なにやら思い惑うといいたげな顔つきである、「うん……」もういちど頷いて天床をふり仰いだ、それから明けてある妻戸の向うの庭を見やった。すると庭はずれにある蔬菜畑でむすめの信夫がなにやらたちはたらいている姿をみつけたので、これまた慌てて眼をそらした。かたわらにいた妻のお萱は、そのようすを訝しそうに見まもっていたが、「いかがあそばしました、お会いなさいませんのですか」ときいた。「なに、ああ会う」勘兵衛はいそいで、「すぐにゆくから接待へとおしておけ……」取次の者にそう云って自分も立ちあがった。けれどもまだなにか心に決しかねるものがあるとみえ、屈託げに溜息をついたり、袴の襞を直したりした。そしてやがてふと妻のほうへふりかえり、にわかに思いついたという調子で、「どうだろう、あの鏡を源七郎に遣わそうと思うが……」と云った。お萱は良人を見あげたが、ああそのことだったのかと微笑した、「わたくしは結構に存じますが……」「信夫もいいだろうな」「それはもう申すまでもないと存じます」それならよいというように、勘兵衛は眉をひらきながらはじめてそこから出ていった。