TRENDIA CLASSIC

追いついた夢

山本周五郎

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娘は風呂桶から出るところだった。

「どうです、いい躰でしょう旦那」

おかみは嗄れた声でそっと囁いた。

「あれだけきれいな躰は千人にひとりもありやしません、こんな商売をしているから、ずいぶんたくさん女の躰を見てますがね、ああいうのこそほんとの餅肌とか羽二重肌とか云うんですよ、あれだけの縹緻だし肉付きもいいし、……まあよく見て下さい。これが気にいらなかったら罰が当りますよ」

そう云っておかみは去っていった。此処は行燈部屋のような暗い長四畳で、壁の一部に二寸角の穴が切ってあり、黒い紗が二重に張ってある。向う側はそこだけ横に黒い砂ずりになっているから、こちらで燈でもつけない限りまったくわからない。和助はその紗へ顔を押しつけるような姿勢で、風呂場の中をじっと見まもった。

娘の名はおけい、年は十七だという。小づくりの緊った躰つきで、着物を着ていたときとは見違えるほど肉付きがいい。殊に胸のふくらみと腰の豊かな線とは、年より遙かに早熟た唆るようなまるみをもっている。湯に温められた肌は薄桃色に染まり、それをぼうと光暈が包んでいるようにみえた。

――いい躰だ。これまで見たなかでは慥かに群をぬいている。

彼はこの尾花屋でもう七人もこういう娘に逢った。こっちで出した条件がいいから相当よく選んだのだろう、なかに三人ばかりは惜しいようなのがいた。しかし彼はいそがなかった。すべての点で自分の好みに合う者、これなら満足だといえる者がみつかるまでは折合わないつもりだった。……その八人めがおけいで、今日は二度めであるが、四五日まえ初めて逢ったとき、だいたい気にいって、今日こうして躰を見る段取りになったのである。

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