主計は忙しい
本文約18,200字 ・ 読了時間 約37分
あらすじ(AIが作成しました)
原田道場の師範代である牧野主計は、非常に多忙な日々を送っている。幼馴染の木下六郎兵衛の祝言や、道場の主である市郎左衛門の娘、折江の輿入れなど、次々と舞い込む用件をこなす。その一方で、道場の門人である武田平之助が画策する工作に気づいた主計は、梅林で彼と対峙し、その剣術に決着をつける。数々の出来事に追われながらも、さらなる課題を抱えて忙しく奔走する姿を描く。
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一
持って生れた性分というやつは面白い。こいつは大抵いじくっても直らないもののようである。筆者の若い知人に、いつも「つまらない、つまらない」と云う青年がいた。なにがそんなにつまらないのかと訊くと、「なにもかもつまらないんです、別に理由はないんで、ただつまらなくってしようがないんです」と答える、「――なにしろ尋常三年生のときからこっちずっとつまらないんですから」こう云って欠伸をした。それからまた、「こいつは遺伝かもしれません、親父もよくそう云ってましたからね」などと云いだした、「――うちは百姓ですが、親父はなんにもしやしません。一日じゅう座敷に坐って、莨をふかしたり寝ころんだり、古いぼろ三味線を持ち出して来て、ぽつんぽつん糸を弾いたりしているんです、そんなものすぐに抛りだして、欠伸をして寝ころんじまう、そうしちゃあ溜息をついて、ああつまらねえ、よくそう云ってましたよ」要するに親の代からつまらないというわけで、さすが物に動ぜざる筆者も、これには挨拶の言葉がなかった。
牧野主計はひじょうに多忙である。彼の日常をみればわかるが、こっちの頭がちらくらするほど忙しい、もちろんそういう位置にもいたわけだが、性分がもう少しどっちかへずれていたら、それほど忙しがらずとも済んだ筈である。――とにかくまず御紹介するとして、赤坂氷川下まで来て頂きたい、そこに原田市郎左衛門の大きな町道場がある、門の前に下男が二人いて、しきりに掃いたり水を撒いたりしているが、なにかみつけたとみえ、一人が高箒を控えて笑いながらこう云った。
「おいみな、また韋駄天が飛んで来るぜ」
「いやはやどうも」片方も苦笑する、「――足もとから土煙りが立ってる、どうしてまああんなに忙しいのだろう」
「避けろ避けろ、轢き殺されるぞ」