TRENDIA CLASSIC

内蔵允留守

山本周五郎

1 / 15

岡田虎之助は道が二岐になっているところまで来て立ちどまり、じっとりと汗の滲み出ている白い額を、手の甲で押し拭いながら、笠をあげて当惑そうに左右を眺めやった。……その平地はなだらかな二つの丘陵のあいだにひらけていた。八月すえだというのに灼けつくような午後で、人の背丈ほども伸びた雑草や、遠く近く点々と繁っている森や疎林のうえに、ぎらぎらと照りつける陽ざしは眼に痛いほどだった。ところどころ開墾しはじめた土地が見えるけれど、大多分はまだ叢林の蔓るにまかせた荒地で、ことに平地の中央を流れる目黒川は年々ひどく氾濫するため、両岸には赭い砂礫の層が広く露出していた。

「……さて、どう捜したものか」途方にくれてそう呟いたとき、虎之助はふと眼をほそめて向うを見た。白く乾いた埃立った道を、こちらへ来る人影が眼についたのだ、筍笠を冠り、竹籠を背負っている、付近の農夫でもあろうかと思っていると、近寄って来たのは十七八になる娘だった、虎之助は側へ来るのを待って、

「少々ものを訊ねる」と、声をかけた。

「……はい」娘は笠をぬいだ。

「このあたりに別所内蔵允先生のお住居があると聞いてまいったが、もし知っていたら教えて呉れまいか」

「はい、存じて居ります」娘は歯切れのいい声で、「……先生のお住居でしたら、あれあの森の向うでございます、彼処にいま掘り返してある土が見えましょう、あの手前を右へはいった森の蔭でございます」

「忝ない、足を止めて済まなかった」虎之助は会釈をして娘と別れた。

山本周五郎の他の作品