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TORENDIA

恋の伝七郎

本文約28,900字 ・ 読了時間 約58分

あらすじ(AIが作成しました)

剣術道場で師範代の村松銀之丞から執拗な嘲弄と厳しい稽古を受ける永井伝七郎は、容姿に恵まれず愚直な性格の若者である。伝七郎は同じく社会の片隅で生きる忠太郎に背中を押され、密かに想いを寄せる三枝への純粋な恋心を正面から打ち明ける決意を固める。やがて銀之丞との対決で図らずも勝敗が決し、伝七郎は己の卑屈さを克服し、三枝と共に自らの人生を切り拓こうと城下へ戻る物語を描く。

山本周五郎

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歌舞伎役者もはだしの美男

「みんなどうした、そんな隅の方へ引込んでしまってどうしようというんだ」村松銀之丞は竹刀に素振りをくれながら、端麗な顔でぐるっとまわりを見まわした、「道場は剣術の稽古をする所で居眠りをする場所じゃあない、さあおれが揉んでやるから出て来い、そこにいる松井、おまえ出ろ」「いや、いや拙者はちょっと頭が痛いもんで」松井某は片手で額を押えながら慌てて後へ退った。「じゃあ野本おまえ来い」「私はもうあがるところで」「田中はまだ汗をかいてないな」「拙者はその、いやもう今日は腹が痛くって」「おれはどうも足の神経痛がよくない」「今日は親の忌日だから」

てんでが、指名されない先に逃げを張っている。……なにしろこの師範代は稽古が荒いのだ、歌舞伎役者のような美男で、起ち居も上品だし、言葉つきもたいそう雅びたものだが、いったん竹刀を持つと人が変ってしまう。どんな初心な者にも容赦というものがない、面を打って胴を払って足がらみにかけてすっ飛ばす、その一つ一つが辛辣で骨に徹るほど烈しい、これから先も加減というものがないのである、だから師範代の稽古というとみんなどこかしら痛みだしたり、親の忌日を思いだしたりするわけであった。

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