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TORENDIA

寒橋

本文約18,300字 ・ 読了時間 約37分

あらすじ(AIが作成しました)

新妻のお孝は、良人の時三への愛着を深め、夫婦の絆を強く願うようになる。ある日、女中のおたみが時三と立ち話をしている現場を目撃したお孝は動揺するが、実はその背後には義父の秘密があった。本作は、夫婦の葛藤と許しを通じ、家族の絆を再構築する過程を描く。

山本周五郎

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一

お孝はときどき自分が恥ずかしくなる。鏡に向っているときなど特にそうだ。

「――まあいやだ、いやあねえ」

独りでそんなことを呟いて、独りで赤くなって、鏡に写っている自分の顔を、一種の唆られるような気持で、こくめいに眺めまわす。全般的に見て、いやな言葉だけれども、膏がのってきている。皮膚が透けるようなぐあいで、なにかの花びらのように柔らかくしっとりと湿っていて、撫でると指へ吸いつくような感じである。

或る気分としては眼をそらしたい。良人というものをもって半年あまりになるが、そのあいだに自分の躯にあらわれた変化は、これには自分としても衒れて、頬の熱くなることがしばしばあった。

――いやあねえ。

こう思うのはそのままの実感である。胸乳のたっぷりした重さ、腰まわりのいっぱいな緊張感、痛いほど張った太腿。そのくせ胴は細く緊って、手足も先端にゆくほどすんなりと細い。その膏の乗って肥えた部分と、反対に細く緊った部分との対比が、娘時代とはあきらかに違ったもので、つい頬が熱くなり、眼をそらしたくなるが、じっさいは胸がどきどきし、唆られるようなふしぎな気持で、いつまでも眺め飽かないのであった。

「――ふしぎだわ、女の躯って、……どうしてかしら、ほんとにいやだわ」

いやだと云いながら、しかも一方では、いくら眺めても眺め飽きないのである。

「――なにをしているんだ、またそんな恰好で、肌をいれたらどうだ、風邪をひくじゃないか」

父親に叱られて、はっとして、そのくせ自分でもわざとらしいほどおちついたすましようで、ゆっくりと着物の袖へ手を入れる。毎々のことだがこれもじつは恥ずかしい。母親がはやく亡くなったせいだろう、まえには父親のほうで気にして、髪結いにゆけとか、白粉の刷きかたがぞんざいだとかよく云われたものだ。

――母親がいないと娘はじじむさくなるって、世間ですぐに云われるんだから、……いっそ白粉をつけないならつけない、つけるなら娘らしくちゃんとつけるがいい。

――今日はこれでいいのよ、今日は白粉ののりが悪いんだもの……それに天気がこんなでくさくさしているのよ、こんな、……白粉なんかどっちでもいいわ。

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