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TORENDIA

狐

本文約8,400字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

岡崎藩の天守に妖怪が出るという噂が広まり、番士たちが恐怖する中、夜ごとに怪異が報告される。国老の婿である乙次郎は、誰もが恐れる天守へ向かい、その騒動を収める。実は噂の正体は古びた建物の綻びや鳥の出入りによる音であった。乙次郎は人々の思い込みが怪異を生むと考えていたが、妻の美弥と密かに狐を飼育し、この騒動を利用して事態を鎮める。理性的な解決を求める婿と、それを信頼する家族の姿を描く物語である。

山本周五郎

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一

いちばんはじめに、誰が云いだしたかわからなかった、また、はじめのうちは誰もほんとうだと思う者はなかった、「まさか、いまどきそんなばかなことがある筈はない」そう云って笑う者が多かった、「そんならためしてみるか」「いいとも」そんなことがいくたびとなくあった、そうして、だんだんと笑う者がなくなった。けれども梅雨期にはいるまではそれほどひろまってはいなかった、ごく近しいなかまのあいだで、ひそひそ囁きあいはするが、内容が内容なので迂濶な者に聞かれたくないという気持がみんなにあった。それが五月(新暦六月)にはいって、じめじめした雨の日がつづくようになったある夜、さらに思いがけない出来事がおこって、噂は本丸やぐら番ぜんたいにひろまる結果となった。……その夜いつつ(八時)頃になって、非番のはずの斧塚新五郎がふいと詰所へあらわれた。しかも、かなり酒に酔っているらしい、かれは詰所へはいって来ると、詰めていた十人の番士たちをぐるっと見まわして、

「おい、貴公たちみんな知っているのか」といきなり云った。そこにい合わせた者の半数にはなんのことかわからなかった、すぐわかった者も黙っていた、「お天守に妖怪がでるという話を聞いたんだ、貴公たちも知っていたんだろう」

知っている者も知らない者もただ妙な顔をした。新五郎はちから自慢で武ばった男だった、じぶんで寛永武士を気どっていて、口をあくと当世(享保年代)ぶりを軽侮するのが癖であった。父の代までは旗本の先手組だったが、かれが相続してから徒士になり、いまでは平の櫓番である。

「返辞のできないところをみると、みんな知っているんだな、だらしのないれんじゅうだ」新五郎はかたなをとって右手にさげながらあがって来た、そして、みんなのそばへ暴々しく坐り、えんりょもなくつづけさまに酒気を吐いた、「百姓か町人ならまだしも、岡崎武士ともあるものが妖怪とはなんだ、宮内、いつごろからそんなばかな評判がたったんだ」

「さあ、拙者は知らないが……」

「茂木は知ってるだろう」

「拙者もよくは知りません、そんなことをちょっと聞いたように思いますが」

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