TRENDIA CLASSIC

柘榴

山本周五郎

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真沙は初めから良人が嫌いだったのではない。また結婚が失敗に終ったのも、良人の罪だとは云えない。昌蔵のかなしい性質と、その性質を理解することのできなかった真沙の若さに不幸があったのだと思う。

松室の家は長左衛門の代で、中老の席から番がしら格にさげられ、更にその子の伊太夫の代で平徒士におちた。長左衛門は癇癖が祟って刃傷したためであるし、伊太夫は深酒で身を誤った。二代で中老から平徒士までおちるのは稀だと云っていいだろう。昌蔵は祖父がまだ中老だった頃の矢倉下の屋敷で生れ、九間町のお小屋で幼年時代を、そして十一の年からは御厩町の組屋敷の中で育った。――階級観念のかたくなな時代に、こうして転落する環境から受けるものが、少年の性質にどういう影響を与えるかは云うまでもあるまい。それに元もと祖父や父の感情に脆い血統の根もひいていたことだろうし、不幸はすでに宿命的だったという気もするのである。

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