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TORENDIA

失蝶記

本文約21,900字 ・ 読了時間 約44分

あらすじ(AIが作成しました)

山中に隠れ住む谷川主計は、少年時代からの親友であり、同志として活動した杉永幹三郎を斬った理由を綴る手記を記す。聴力を失うという不治の病に苦しみ、深い孤独と絶望の中にあった主計は、やがて梓久也という男が仕掛けた罠によって親友を死に追いやったと確信する。追われる身となった主計は、かつての同志たちに包囲される中、自らを陥れた梓の正体と真実を告げ、彼との対決に向き合う。

山本周五郎

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一

紺野かず子さま。

この手記はあなたに読んでもらうために書きます。こういう騒がしい時勢であり、私は追われる身の一所不住というありさまですから、あるいはお手に届かないかもしれません。また、終りまで書くことができるかどうかもわかりませんが、もしお手許に届いたばあいには、どうか平静な気持で読んで下さるよう、はじめにお願いしておきます。

いま私のいるところは、城下町から一里ほどはなれた山の中で、かなり近く宇多川の流れを見ることができます。西山での不幸な出来事、あの取返しようのない出来事があってから約十日、私はつぎつぎと隠れがを求めてさまよい歩き、三日まえからこの家の世話になっていますが、おそらく、またすぐに出てゆかなければならなくなるでしょう。いどころも、人の名もそのままは書きません。どういうことで迷惑をかけるかもしれないからです。しかしあなたにはおよそ推察ができるように記すつもりです。

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