TRENDIA CLASSIC

嫁取り二代記

山本周五郎

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「伯父上お早うござる」

自慢の盆栽の手入れをしていた牧屋勘兵衛はそう声をかけられて振返った。

「良いお日和でございますな」

調子のいい愛想笑いをしながら、甥の直次郎がこっちへやってくる。勘兵衛は眼鏡越しにじろりと睨んで、

「――えへん」

と威の空咳をした。機嫌執りをしてもその手は喰わぬと云う意味である、ところが相手はいっこう感じない様子で、

「やあ驚いた、あの枝はもう咲きますな、さすがにお手入れが良いだけあって、この臘梅はいつも半月早い、――庭木では誰にもひけを取らぬと云う瀬沼老が、この臘梅には音をあげていましたよ。いや実に見事だ」

「えへん、えへん」

瀬沼庄右衛門は藩の徒士目付で、勘兵衛とは盆栽の自慢敵である、――勘兵衛危くつり込まれそうになって慌てて空咳にまぎらした。直次郎は方面を変える。

「おやおや、しばらく拝見せぬ内にだいぶ鉢が殖えましたな、あれは何でござるか」

「――――」

「葉の色と云い枝振りと云い、実に風雅なものだが、はてな、――芙蓉かな」

勘兵衛は、ついに堪らなくなって、

「こいつ、でたらめをっ」

と振返った、「正月の十日に芙蓉が葉を出すか、考えてみい」

「すると葉牡丹ですか」

「貴様……この、――」

と眼鏡を掴みとったが、恐ろしく太い鼻息を洩らすと、吐出すように呶鳴った。

「石斛じゃ、石斛というんじゃ、よく見ろこれを、――芙蓉や葉牡丹などとは茎も葉もまるで違うわ、違い過ぎるわ馬鹿馬鹿しい」

「こっちは何ですか」

けろりとしている。

「――知らん」

「はて何だろう、――こうっと、ああ分った、これは御自慢の真柏です、今度は当りましたろう」

「それがどうした」

「してみると拙者にも植木の一つや二つは、満更分らぬ事もないと云う訳ですな、はっはっは、――時に、真柏で思い出しましたが、瀬沼老ひどく口惜しがっていましたよ伯父上」

「――何を?……」

「残念だが牧屋には敵わぬ、わしも真柏では苦心をしたが、とても牧屋ほど立派な花は咲かされぬと」

「馬鹿野郎!」

勘兵衛は喚いた、「誰がどう苦心をしようと真柏に花が咲くか」

「そ、それは不思議……」

「貴様の方がよっぽど不思議だ。これ、――こっちへ向いてみろ!」

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