一
永禄十三年正月元日、尾張国清洲城は、祝賀の宴で賑わっていた。
東海の雄今川義元を田楽狭間に屠ったのが二十七歳、それ以来斎藤龍興を降し、近江十八城を抜き、征馬を駆って摂津、河内を蹂躙した織田信長は、威勢ようやく天下を呑むの時期にあった。
――殊に前年の冬、伊勢の北畠倶教を攻破った後のことで、年賀の宴はそのまま勝戦の祝いをも兼ね、城内は歌舞歓声にどよみあがっていた。
館の大広間でも酒宴当に酣で珍しく奥方や侍女たちを侍らせた信長は、機嫌よく盃を挙げながら列座の諸将士の語る伊勢合戦の功名談を聴いていた。
――祝宴は無礼講になり、みんな充分に酔って来ると、手柄話はいつか戦場の失敗談に移り、一座は明朗な笑声に崩れ始めた。
すると丹羽五郎左衛門が、
「そういう話なら拙者に取って置きの珍物がある。我君、……お座興に家来を一名これへ召寄せとうございますが、お目通りお許し願えましょうか」
と仔細あり気に云った。五郎左衛門が折に触れて意表外な笑の種を撒くことはみんな熟く知っている。
「宜し宜し、無礼講じゃ、呼ぶが宜い」
信長も興ありげに頷いた。
五郎左衛門は立って行ったが、間もなく一人の若者を伴れて戻った。――二十一か二であろう、痩形ではあるが骨組の逞しい体つきで、髭の剃跡の青々とした、眼の大きな、凛とした面魂を持っているが、斯うした晴れの席には馴れぬとみえて、どうやらぶるぶると胴震いをしている様子だった。
「――申上げます」
五郎左衛門は妙な含笑いをしながら、
「これは五郎左が伊勢攻めの前に召抱えました者でございます、恐れながらお言葉を賜わりまするよう」
「どうするのだ」
「先ず、お言葉を……」
信長は盃を手にしたまま、含笑いをしている五郎左から若者の方へ眼を移した。
「余が信長じゃ、許す。面を挙げい」
「は、――」
「名は何と云うか」
若者は平伏しながら、
「お側まで申上げます、本……本多平――」
「直答で宜い、判きりと申せ」
「は、――」
若者はさっと顔を蒼くしながら、
「本多、本多平八郎と申します」
「なに本多平八郎とな?」
信長は眼を瞠った。