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TORENDIA

花咲かぬリラ

本文約18,300字 ・ 読了時間 約37分

あらすじ(AIが作成しました)

軍隊での玉砕を報じられながらも生還した麻川来太は、恩師の家を訪ね、かつての仲間であった杉浦に先立たれた富美子の消息を追う。戦後の混乱した社会の中で、未来を担う子供たちのため、自己の理想を追い求める来太。彼は富美子を伴い、共に新しい人生を歩むため、長瀞から旅立つ決意を固める。戦争によって分断された絆と、荒廃した国土を復興させようとする若者たちの葛藤と希望を描く物語。

山本周五郎

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一

軍服を着た肩のたくましい背丈の眼だって高い青年が、大股のひどく特徴のある歩きつきで麻布片町坂を下りて来た。片手に鞄を持ち、右の肩に大きくふくらんだ雑嚢をひっ掛けている、鞄にも雑嚢にも筆太の無遠慮な字で麻川来太と書きなぐってあるが、その特徴のある歩きぶりと体つきとが似合っているように、そのなぐりつけたような名の文字と風貌ともよく似ているので、注意して見る者にはちょっと失笑したくなるような印象を与える。……坂の途中で彼は左へ折れた、そこは閑静な中流の住宅街で、たいてい同じような門と塀をとりまわし、樹の多い庭や、古びたつつましやかな、しかし住み心地の良さそうな家構えなど、みなどこかに共通点のあるのが、その街筋ぜんたいにおちつきと静かさを保たせている。……麻川来太は曲がった角から三軒めの家を訪れた。野茨の低い生垣の門を入ると洋風の玄関があり、春の光のいっぱいにさしているその片隅に鸚鵡の籠が置いてあった。

「よう、生きていたな」彼は鸚鵡に話しかけながら呼鈴を押した、「……おまえが生きているくらいなら皆さん大丈夫だろう、どうだ、今でも豆腐屋をやるか」

扉が明いて中年の婦人が顔を出した、そして「まあ来さん」と云って片手で自分の胸を押えた。来太は右の手でひょいと一種の身振りをし、唇を上へ押し上げるようにしながらにやっと笑った。眉も眼も少し尻下がりの、角張ったがっちりとした顔は、そのままでも相当に愛嬌があるが、笑うとまるであけっ放しな腕白小僧のような顔つきになる。

「まあ来さん」と、婦人はもういちど息を吸い込むように叫んだ、「……あなたお帰りになったの、ご無事だったんですか」

「ええ生きて帰りました」

「まあ、それはまあ、それなら電報くらい打っておよこしになればいいのに、とにかくまあお上がりになって」

「お邪魔します、しかし二時間しか余裕がありませんからどうか構わないでください」

「はいはい承知いたしました」婦人は来太の鞄を受け取りながら振り返って呼んだ。

「由利さん、来太さんがお帰りになってよ」

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