半之助祝言
本文約21,800字 ・ 読了時間 約44分
あらすじ(AIが作成しました)
折岩半之助は、城代家老である埴谷図書助を辞任させるという重い使命を帯びて江戸から着任する。若く世間知らずに見える半之助は、青年結社・玄武社の幹部たちから助言や警告を受けるが、一向に意に介さない。彼は図書助の傲慢な施政方針に反発し、正面から対立を繰り返す。そんな中、半之助は図書助の娘である笙子を妻に迎えたいと申し出るという、周囲を驚愕させる大胆な行動に出る。
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一
折岩半之助が江戸から着任した。
その日、立原平助が桃の咲きはじめたのを見た。次席家老の前田甚内の家の桃である。平助はそれについて次のような感想を述べた。
「南枝一輪、桃などもそう云っていいものかどうか、ともかく南面の枝に三つ四つ、ふっくらと咲いていたよ、こんなふうにさ」
彼は両手でそんなふうな恰好をしてみせた。
「――私は思わずどきりとしたね」
そこで葵太市が訊いた。
「桃が咲いてなぜどきりとするんだ」
「一種の前兆、といったものかどうか、なにかしら起る、これは単に桃が咲いたというだけのものじゃない、吉か凶かわからないけれどもとにかくなにか起る、こうしてはいられない、といった感じだねえ」
葵太市はそうかねえと云った。ほかの者は聞いてもいなかった。
着任した折岩半之助を見て、重役の人々はその若いのに驚いた。
この異動には相当むずかしい重要な使命がある。経験に富み、老巧にして円滑、才気縦横、大胆不敵といった人材でなければならない。それには半之助はいかにも若すぎた、二十六だというが二十二三にしかみえない。背丈は五尺六七寸、まる顔でおちょぼ口で、梟のような眼をしている。人品はなかなかである。しかしどう値ぶみをしても、世間知らずで気立てのよい坊ちゃん、ぐらいにしかふめなかった。
「どうですかなこれは、どんなものですかな」
「さよう、どんなものでしょうか」
前田甚内はじめ重役たちは首をひねった。念のために「使命」の点をたしかめると、
「ええ知っています」
彼はあっさり頷いた。あんまりあっさりしているので、それ以上なにも訊く隙がなかった。もちろんそれで安心したわけではないが、藩主の任命でもあるし、とりあえず住居を与え、実情査察のため半月の休暇を出した。
着任して五日めに、玄武社の幹部たちが、折岩半之助を招いて会食した。
玄武社は青年たちの自主的結社であって、十七カ条にわたるいさましい盟約があり、裄丈を一般より三寸短く裁縫した衣類を着るのと、頬髯をたくわえるのとで眼立つ存在だった。社中は三十七人、没頭弥九郎という剣術のうまい、頬髯の誰よりみごとな男がその指導者で、彼は「社長」と呼ばれた。