TRENDIA CLASSIC

半之助祝言

山本周五郎

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折岩半之助が江戸から着任した。

その日、立原平助が桃の咲きはじめたのを見た。次席家老の前田甚内の家の桃である。平助はそれについて次のような感想を述べた。

「南枝一輪、桃などもそう云っていいものかどうか、ともかく南面の枝に三つ四つ、ふっくらと咲いていたよ、こんなふうにさ」

彼は両手でそんなふうな恰好をしてみせた。

「――私は思わずどきりとしたね」

そこで葵太市が訊いた。

「桃が咲いてなぜどきりとするんだ」

「一種の前兆、といったものかどうか、なにかしら起る、これは単に桃が咲いたというだけのものじゃない、吉か凶かわからないけれどもとにかくなにか起る、こうしてはいられない、といった感じだねえ」

葵太市はそうかねえと云った。ほかの者は聞いてもいなかった。

着任した折岩半之助を見て、重役の人々はその若いのに驚いた。

この異動には相当むずかしい重要な使命がある。経験に富み、老巧にして円滑、才気縦横、大胆不敵といった人材でなければならない。それには半之助はいかにも若すぎた、二十六だというが二十二三にしかみえない。背丈は五尺六七寸、まる顔でおちょぼ口で、梟のような眼をしている。人品はなかなかである。しかしどう値ぶみをしても、世間知らずで気立てのよい坊ちゃん、ぐらいにしかふめなかった。

「どうですかなこれは、どんなものですかな」

「さよう、どんなものでしょうか」

前田甚内はじめ重役たちは首をひねった。念のために「使命」の点をたしかめると、

「ええ知っています」

彼はあっさり頷いた。あんまりあっさりしているので、それ以上なにも訊く隙がなかった。もちろんそれで安心したわけではないが、藩主の任命でもあるし、とりあえず住居を与え、実情査察のため半月の休暇を出した。

着任して五日めに、玄武社の幹部たちが、折岩半之助を招いて会食した。

玄武社は青年たちの自主的結社であって、十七カ条にわたるいさましい盟約があり、裄丈を一般より三寸短く裁縫した衣類を着るのと、頬髯をたくわえるのとで眼立つ存在だった。社中は三十七人、没頭弥九郎という剣術のうまい、頬髯の誰よりみごとな男がその指導者で、彼は「社長」と呼ばれた。

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