TRENDIA CLASSIC

ひとでなし

山本周五郎

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本所石原町の大川端で、二人の男が話しこんでいた。すぐ向うに渡し場があり、対岸の浅草みよし町とのあいだを、二はいの渡し舟が往き来しており、乗る客やおりる客の絶えまがないため、河岸に二人の男がしゃがんだまま話していても、かくべつ人の注意をひくようすはなかった。――十一月の下旬、暖たかかった一日の昏れがたで、大川の水面はまだ明るく、刃物のような冷たい色に波立っているが、みよし町の河岸に並んだ家並は暗く、ぽつぽつと灯のつき始めるのが見えた。

男の一人は小柄で痩せていた。女に好かれそうな、ほっそりした柔和な顔だちで、なめらかな頬と、赤くて小さな唇が眼立ってみえた。他の一人は背丈が高く、骨太で肉の厚い躯つきや、よく動くするどい眼や、ときどき唇をぐいと一方へ歪める癖などに、ありきたりではあるが陰気で残忍そうな感じがあらわれていた。年はどちらも三十四五であろう、二人とも黒っぽい紬縞の素袷を着、痩せた男のほうは唐桟縞の半纒をはおっていた。

「すみのやつは手が早えからな」と痩せた男が云った、「あいつの手の早いのにかなう者あねえだろうな」

「すみは手も早えが端唄もうめえ」と大きいほうの男が云った。ぶっきらぼうな、苛いらしたような口ぶりだった、「まるっきりでもねえが、端唄をうたってるときのすみのやつは人間が変ったようになる、おらあすみのうたうのを聞くのが好きだ」

痩せた男が喉で笑った。人をこばかにするというよりも、可笑しくてたまらないといったふうな笑いかたであった。

「あいつの端唄には泣かされるぜ」

「どうして笑うんだ」と大きいほうの男が云った。唇が片方へ曲り、眼の奥で火がちかちかするようにみえた、「すみの端唄のどこが可笑しいんだ」

「おちつけよ、人が立つぜ」と痩せた男が云った。彼はその伴れのほうへは眼も向けず、しゃがんだまま、地面から小石を五つ拾い、それを片手で握って振っては、ぱらっと地面に投げ、また拾い集めて、握って振っては投げる、という動作をくり返していた。

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