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TORENDIA

ひやめし物語

本文約15,800字 ・ 読了時間 約32分

あらすじ(AIが作成しました)

柴山家の四男・大四郎は、定職もなく古本修理を日課とする暢気な部屋住みであった。ある日、見知らぬ女性に一目惚れした大四郎は、自身の境遇を顧みて諦めようとするが、やがて縁談の話が舞い込む。周囲の驚きをよそに自身の人生を切り拓いた大四郎は、妻となったぬひが千羽鶴に込めていたある願いを知る。本作は、武家の二男以下が抱える宿命と、穏やかな日常の中に訪れたささやかな奇跡を描く。

山本周五郎

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一

大四郎は一日のうち少なくとも二度は母の部屋へはいってゆく、「お母さんなにかありませんか」と、云うことは定っている。云わないで黙っているときもある。ながいあいだの習慣だから母親の椙女は、彼がそう云おうと黙っていようと、茶箪笥のほうへ振返って、「上の戸納をあけてごらんなさい、鉢の中に飴があった筈ですよ」と云う、菓仙の饅頭や笹餅のこともあるし、茶平の羊羹のこともあるが、たいていは黒い飴玉だ、彼は欲しいだけ皿に取って自分の部屋へ帰り、うまそうにしゃぶりながら古本いじりをやる。

大四郎は、柴山家の四男坊である。父の又左衛門は数年まえに死に、長兄が襲名して家を継いでいる。次兄の粂之助は家禄三百石の内から五十石貰って分家し、三兄の又三郎は中村参六へ養子にはいった。中村は新番組の百九十石で、なかなか羽振りのいい家である。……大四郎は二十六歳になるが、いわゆる部屋住で兄の厄介者だ、思わしい養子の話もないし、次兄が五十石持っていったので家禄を分けて貰うわけにもいかない。縁が無ければ、一生冷飯で終るより仕方がないのである。裕福でない武家の二男以下はみなそうだし、これはなんともいぶせき運命であるが、大四郎はかくべつ苦にしていないようだ。彼に限らずいったい柴山の家族は暢気者ぞろいで、誰も四男坊に就いて積極的に心配するようすがない、「そのうちなんとかなるさ」くらいの、ごく軽い気持でなりゆきに任せていた。

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