一
「好い男っていうんじゃあないんだ、うん、おとなしくって気の弱そうな性分が、そのまま顔に出てるって感じさ、まだ若いんだ」
「もういいかげんにおよしよ、おまえさん、それは罪だよ」おつねが頸筋へ白粉をぬりながら云った、「それに世間にゃそうそう鴨ばかりいるもんじゃないからね、いまにひどいめにあうよ」
「黙っててよおつね姐さん」ちよのが舌ったるい口ぶりで云った、「それで、ねえそれでどうしたの、おしの姐さん」
「たち昏みのまねをしてみせただけさ」
「どんなふうに……」
「ちょうど伝法院の門のところだったね、お勝ちゃんといっしょにうしろから追いぬいていって、ちょっと立停って、それからふらふらっとお勝ちゃんのほうへ倒れかかったのさ」
「それでたち昏みのように見えるの」
「こつがあるんだ」とおしのは帯をたたみながら云った、「腰の力をぬいて、片っぽの膝をこう、がくっとさせるのさ」
「さんざ精をだしたあとで始末をしに立つときみたいにかい」寐ころんでいるげれ松が云った、「ふん、久しくそんなおもいをしたことがないや、たまには始末をしに立つこともできなくなるほど精をだす相手に逢ってみたいね」
「お願いだから黙っててよ」ちよのは躯を捻りながら云った、「あたしおしの姐さんの話を聞きたいのよ、聞きたくってしようがないんだから、ごしょうだから邪魔しないでよ」
「聞いて真似でもしようってのかい」げれ松は小指の爪で歯をせせった、「ふん、そんな柄じゃないよおまえは、そういうことのできるのは、おしのさんのような縹緻と、おしのさんのように眼から鼻へぬける知恵がなくっちゃだめさ、おまえなんぞはそれより銭箱でも磨いて、ようくそこらを抜き揃えて、――」
自分の綽名を証明するかのように、げれ松は思いきりあくどい表現で、ずけずけと露骨なことをまくしたてた。