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TORENDIA

日本婦道記

本文約9,600字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

徳川家康の軍に従い出陣した沼田城主・真田信之の妻、松子は、幼い二人の子を抱え城を守る。ある日、義父の昌幸と義弟の幸村が予期せず城へ立ち寄ろうとするが、戦時下の不審な挙動と見抜き、断固として入城を拒絶する。武装して警備を固め、敵対関係となる可能性をも視野に入れた厳格な留守の務めを果たす松子の姿を描く。

山本周五郎

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一

はたはたと舞いよって来たちいさな蛾が、しばらく燭台のまわりで飛び迷っていたと思うと、眼にみえぬ手ではたかれでもしたようにふいと硯海に湛えた墨の上へおち、白い粉をちらしながらむざんにくるくると身もだえをした。松子は筆をとめてそれを見た、ふだんは部屋にひとついても身ぶるいのするほど嫌いな虫だったけれど、そのときはどうしてかいたましく哀れに思え、つと書き反古の紙をとって、しずかに墨しるの中から救いあげてやった。なかばは無意識でしたことだったが、さてその墨にまみれた蛾をどうしたらよいかとあたりを見まわしたとき、ふと自分の心をかえりみてどきっとした。――あらぬものにたよった。自分で自分の心にそれを感じたのである。いけない、気持がみれんになっている、つねのままの自分ではない。そう思い、おのれの気をひきしめるように、蛾をのせている紙をそのまま柔かくまるめて反古箱へ捨てた。

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