わが師への書
本文約15,300字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
一冊のノートに書き綴られた少年による師への手紙を通して、彼の内面や日常を綴る。将来への迷いや家族との不和、友人との交流、亡き母への想いなどを独白し、思春期の繊細な心象風景を描く。無能無才と自嘲しながらも、詩人への憧れを抱き、孤独な時間の中で先生の姿を空想しては対話を試みる少年の姿を、誠実な語り口で克明に描き出す物語である。
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それは一冊の古ぼけたノートである。表紙には「わが師への書」と書いてある。あけると扉にあたる頁に「朝を思い、また夕を思うべし。」と書いてある。内容は一人の少年が「わが師」へ宛てて書き綴った手紙の形式になっている。これも青春の独白の一つであろう。以下その中の若干をここに抄録する。
先生、僕、ふと思うのですが、先生は鳥打帽がお似合いではないかしら。なんだかそんな風に思えてなりません。唐突にこんなことを云って、可笑しな奴だとお思いですか。でも、僕、いつも先生のことを想うときには、先生はきっと鳥打帽が似合うに違いないと独断してしまうのです。鳥打帽の似合うお年寄りは、僕好きです。僕はいまとても嬉しいのです。到頭先生に話しかけることが出来たということが。僕は至って小胆者で人と朝晩の挨拶を交わすことさえ満足に出来ない奴です。先生だからこそ、しょっぱなからこんな風に始められたのです。僕は先生には何んでも聴いて戴けるような気がします。僕はみんな話します。僕がどんな奴だか、追々お分りになるでしょう。
中学校の入学試験の際、口頭試問で将来の志望を問われた時、医者になりたいと僕は答えました。家の親戚に親切なお医者さんがいたのです。僕は子供心にそういう人になりたいと思いました。死んだ母もそれを望んでおりました。その後教会に行くようになってから、牧師になりたいと願うようになりました。信仰を失ってからは小学校の先生になろうかと思ったりしました。いまは、……無能無才、ただこの一筋につながる気持です。辺幅を飾らず、器量争わず、人を嘲わず、率直に「私」を語る心こそ詩人のものだと思います。僕の好きな一人の詩人の名を云ってみましょうか。ハンス・クリスティアン・アンデルセン。