歔欷く仁王像
本文約13,800字 ・ 読了時間 約28分
あらすじ(AIが作成しました)
日本橋の骨董商の娘・お通は、従兄の清吉と遊ぶ中で、番頭の藤兵衛と武家・津田直記による不穏な密談を偶然耳にする。その直後、清吉は不慮の事故で唖聾の白痴のようになってしまう。清吉の変貌に胸を痛めるお通だったが、屋敷周辺では仁王像が泣き声を上げたり、自身を糾弾する怪異が相次ぐ。藤兵衛らの横領と父の監禁が明らかになる中、障害を装い敵の計略を探っていた清吉が、大岡越前守の前で真相を告発する物語。
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一
――まあ、なんて清吉は色が白いのだろう。
黴臭い匂いのこもった土蔵の二階である。鎧櫃や長持や用箪笥を積重ねた狭い片隅に、じっと身をひそめていたお通は、今しも階下から自分を捜しに来た清吉の姿を、そっと覗きながら口の内で呟いた。
――眼も大きくて綺麗だし、髪も漆のように艶々と美しいし、まるで女の子みたいだわ。
しかしそういうお通も近所で評判の縹緻好しだった。……日本橋通油町で有名な骨董商、和泉屋治兵衛の一粒種で今年十三歳、下ぶくれの京人形のような面差しに、大好きな唐人髷がよく似合って、伝説の赫夜姫とはこういう美しさかと思われるくらいであった。
清吉は二つ違いの十五、お通とは従兄妹同志に当たる孤児で、十の年から店へ引取られ、小僧たちと一緒に働いている、口数の少ない利口な性質で皆からも可愛がられていたが、殊にお通はいつも側から離さず、双六だの手毬だのと、なくてはならぬ遊び相手にしていた。……今日もこうして朝から、子供のように隠れんぼうをして遊んでいるのだった。
「変だなあ、ここじゃないのかしら」
捜しあぐねて清吉が呟いた。
「たしかに二階へ来たと思ったんだけど」
「…………」
「店土蔵の方かしら」
お通はおかしくて堪らず、我慢に我慢をしていたけれど、清吉のいかにも困った顔つきを見ると、とうとうぷっと笑い出してしまった。
「あ、みつけた」
「ほほほほほ、駄目よ駄目よ」
お通は隠れ場所から出て、甘えるように清吉の手を握って振りながら、
「今のはあたしが笑ったからみつかったのだわ、清吉ったらわざと困った風をするんですもの、おかしくって駄目よ」
「そんな事ってありませんよ」
清吉は恥ずかしそうに握られた手を放して、
「独り言を言っちゃいけないって定りはありませんからね、笑ったのはお通さまが悪いんです、今度は清吉が隠れますからお通さまはここで六十数えるんですよ」
「ずるいわ、今のは清吉が悪いのよ」
「じゃ今度はお通さまもなさればいいでしょう、さあ隠れますよ」
そう言い捨てると、清吉は走るように階下へ降りて行った。