TRENDIA CLASSIC

美少女一番乗り

山本周五郎

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「――えイッ」

叩きつけるような気合と共に、空を切って白刃がきらめき、人影が入り乱れた。

「えイッ、とうッ」

「わあっ」

凄まじい絶叫と悲鳴が聞こえ、小具足を着けた追手の武者三人が斬倒された。――残る一人が思わずたじろぐ隙に、追われている若い武士は身を翻えして楢林の斜面へ駆登って行く。

「待て、逃げるか、卑怯者ッ」

ただ一人残った追手の武者は、うわずった声で叫びながら猛然と追った。

ここは飛騨と信濃の国境、深い渓谷と密林と断崖に阻まれて、昔から人跡まれな「摩耶谷」の山中である。――槍岳を主峰とする連山は、初夏というのに残雪を頂き、麓の樹々もまだ水々しい銀鼠色の若葉で、その枝葉がくれに駒鳥やかけすや藪鶯などが、美しい羽色を誇らかに鳴き渡っている。……この平和な、寂とした林間を縫って、今しも二口の白刃が眩しく陽にきらめきながら、山の尾根へ走り登って来た。

「待てッ卑怯者」

追手の武者は再びわめいた。

「敵に後ろを見せて、それでも武士か」

「――――」

追われている若い武士が、その一言で思わず立ち止まる、刹那! 追い迫った武者は、真っ向からだっと斬りつけた。双方ともすでに疲れ果てていた、若い武士は体を開いて、右へ避けながら相手の脇壺へ力任せに一刀、深々と斬込んだ同じ刹那に、相手の剣もまた若い武士の高腿を十分に斬っていた。

「あっ」

「うーッ」

ほとんど同音に呻きながら、追手の武者はそこへ顛倒し、若い武士はがくんと横へのめる、その足を踏外して急斜面を、摩耶谷の方へ烈しく辷り落ちて行った。

何の手懸りもない崖だ、砕けた岩屑と共にだあっと四、五十米ころがり落ちると、下に茂っていた灌木林の中へ強かに抛り出された。――高腿に重傷を負っているうえに、岩の尖りで体を打ったから、しばらくは身動きも出来ず、萌え出した下草を掴んで呻くばかりだった。

しかし間もなく、若い武士はきっと顔をあげた、がさがさと灌木を踏分けて、こっちへやって来る妙な物音が聞こえたのだ。

――追手か?

と半身を起こしたが、

「あ! 熊、熊――」

と色を変えた。

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