だんまり伝九
本文約8,700字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
土佐の国浦戸城で、領主長曾我部元親が召しかかえた新参の武士・別部伝九郎の腕を見ようと、怪力の剛兵衛との試合を命じる。伝九郎は試合で剛兵衛を翻弄しつつあえて逃げ出して敗北を認めるが、その真意は忠義にあった。後に四国平定の合戦で武功を挙げた伝九郎は、自分を侮辱し果たし合いを強要した五人の武士たちを返り討ちにするも、彼らの赦免を主君に嘆願し、武士の鑑として称賛と信頼を勝ち取る。
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一
「どうだい、赤松さまは、いつ見ても恐ろしいなあ、あのかっこうを見てくれ」
「じつにどうも人間とは思えねえ」
「や、や、今日はじまんの樫棒だぜ」
ここは土佐の国浦戸の城中。大館の広庭では、領主長曾我部元親をはじめ家臣のならぶ前で、いましも二人の武士が試合を始めようとしているところであった。そのようすを外庭の生け垣のかげから、十四、五人の足軽たちがのぞき見しながら、口々に品さだめをしている。
「なにしろ五十人力の鬼剛兵衛さまだからな。勝たせてあげてえが、どうも別部さんには勝ち目がねえぜ」
「まったくだ、あの樫棒でやられちゃたまらねえ、本気でやられたら殺されてしまう」
「まあ腕の一本でもぶち折られるがおちだろ」
「だまれ、こやつら!」
足軽たちの中で一人の老人がわめいた。
「だれだいどなるのは」
一人がふりかえって、「おや、弥平じいそこへきていたのか」
「何をぬかす、だまってきいていればなんだ、おらが旦那の別部さまに勝ち目がねえの、ぶち殺されるの腕を折られるのと、とんでもねえことをいうやつらだ。勝つか負けるか見てからものをいえ。北畠浪人で別部伝九郎さまといえば、中国すじから関東まで知られた勇士だ、いまに鬼剛兵衛なんぞは地面へはわせてやるから見ていろ」
「おいほんとうかい弥平じい」
みんなあきれた。
「ほんとうだとも、おれはまだ嘘とかっぱをついたことはねえ。もしおれの旦那が負けたら、おらの頭を気のすむほどなぐらせてやらあ」
弥平じいさんひとりでりきんでいる。
広庭では、いよいよ支度をととのえた二人が、元親の前へすすみ出た。赤松剛兵衛は、身のたけ二メートルあまり、体重百五十キロをこす大男、鬼と異名をとった長曾我部家第一のごうけつである。――それにくらべて別部伝九郎は二十五歳、色白の中肉中背で、骨つきこそたくましいが、剛兵衛とならぶと大人と子どもほどちがう。剛兵衛は六尺(一・八メートル)ばかりの八角にけずりあげた筋金入りの樫棒、伝九郎は三尺二寸(一メートルたらず)無反りの木剣を持っている。