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TORENDIA

魔睡

本文約13,600字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

法科大学教授大川渉は、関西で起きた事件の調査のため旅行の準備を進めている。医師の杉村との対談後、妻から医師の磯貝による診察中に起きた不可解な出来事を打ち明けられる。妻の告白により大川は心中穏やかならぬ疑念を抱きつつも、夜汽車で目的地へと向かう。道中、彼は悲劇的な恋物語を描いた脚本を読みながら、妻への複雑な感情と向き合い、自らの内面に去来する不安や不快感を鎮めようと努める。

森鴎外

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法科大学教授大川渉君は居間の真中へ革包を出して、そこら中に書物やシヤツなどを取り散らして、何か考へては革包の中へしまひ込んでゐる。大川博士は気のゆつたりした人で、何事があつても驚くの慌てるのといふことはない。世間の人の周章狼狽するやうな事に出くはすと、先生極て平気で、不断から透明な頭がいよいよ透明になつて来る。教授会議や何ぞで、何か問題が混雑して来て、学長が整理に困るやうな時、先生が徐ろに起つて、いつもの重くろしい口吻で意見を陳べると、大抵の事は解決を告げることになる。その議論は往々快刀乱麻を断つがある。それだから友人の間では、あの男を教授にして置くのは惜しいものだ、行政官にして事務を捌かせて見たい、いや一その事、弁護士にして、疑獄の裁判にあの頭を用ゐさせて見たいなどと云つてゐる。その癖当人は政事臭い事には少しも手を出さない。それは何でも半分為るといふことが大嫌だからである。ところが先生は小間々々した事にはすぐに閉口する。先づ旅行なぞといふ事になると、一週間も前から苦にする。それは旅行に附随して来る種々の瑣末な事件を煩はしく思ふのである。行李を整頓するなども其一つである。そんならその煩はしい事を人に任せるかといふと、さうでもない。友人が何故人にさせないのだと問ふと、どうも人にさせると不必要な物を入れて困るといふ。必要な物が有つたら、其上に不必要な物が交つてゐる位好いではないかと云ふと、それはさうだ、金持で、人を大勢連れて、沢山荷物を持つて旅行をするのなら、家財を皆持つて歩いても好いのだ、たつた一つの小さい革包を人に詰めさせて出て、旅行先で開けて見た時に、探す物が上の方にはいつてゐないと、おれは面倒だから、探す物を探し出さずに打遣つて置くやうになる、それ程なら、なんにも持たずに出た方が増だと云ふ。そこで、今日なぞは細君が留守なのだが、いつも内にゐる時でも手伝はせない。書生も下女も勿論遠ざけて、独りで遣つてゐるのである。

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