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TORENDIA

かのように

本文約22,500字 ・ 読了時間 約45分

あらすじ(AIが作成しました)

歴史を専攻し、留学から帰国した秀麿は、実家で自室に籠もり読書を続ける日々を送る。かつて卒業論文に取り組む中で心身の調子を崩し社交から遠ざかっていた秀麿を、家族は深く案じていた。帰国後も、現実と向き合う中で抱える学問的・精神的な葛藤を深め、同居する家族や対話する友人との間で、秀麿は自らの立場や生き方を巡り苦悶する。真摯に歴史を探求しようとする秀麿が直面する、「八方塞がり」ともいえる自己の職業との向き合い方が焦点となる。

森鴎外

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朝小間使の雪が火鉢に火を入れに来た時、奥さんが不安らしい顔をして、「秀麿の部屋にはゆうべも又電気が附いていたね」と云った。

「おや。さようでございましたか。先っき瓦斯煖炉に火を附けにまいりました時は、明りはお消しになって、お床の中で煙草を召し上がっていらっしゃいました。」

雪はこの返事をしながら、戸を開けて自分が這入った時、大きい葉巻の火が、暗い部屋の、しんとしている中で、ぼうっと明るくなっては、又微かになっていた事を思い出して、折々あることではあるが、今朝もはっと思って、「おや」と口に出そうであったのを呑み込んだ、その瞬間の事を思い浮べていた。

「そうかい」と云って、奥さんは雪が火を活けて、大きい枠火鉢の中の、真っ白い灰を綺麗に、盛り上げたようにして置いて、起って行くのを、やはり不安な顔をして、見送っていた。邸では瓦斯が勝手にまで使ってあるのに、奥さんは逆上せると云って、炭火に当っているのである。

電燈は邸ではどの寝間にも夜どおし附いている。しかし秀麿は寝る時必ず消して寝る習慣を持っているので、それが附いていれば、又徹夜して本を読んでいたと云うことが分かる。それで奥さんは手水に起きる度に、廊下から見て、秀麿のいる洋室の窓の隙から、火の光の漏れるのを気にしているのである。

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