凶報到る
東京理科大学生の椙原敦夫は、北海道の奥地に在る故郷の妹から、
(母死ス父危篤至急帰レ、至急ヲ要ス)
という意味の電報を受取った。
「なんだい是は」
敦夫は訳が分らぬという顔で呟いた。
「母さんが死んで父さんが危篤だって? ――またチイ公の悪戯じゃないのか」
春の休暇で帰省した時には父親こそ数年来の病床にあったが、妹の千代子も母親も揃ってぴんぴんしていたし、他に何も変った事が起りそうな状態は見当らなかった。
「然しまさか母死すなんて事が冗談に云えるもんじゃない、殊に依ると何か変事でも起ったのかも知れない、――兎に角行ってみよう」
敦夫は直ぐ出立の支度をした。
至急という事なので、朝の旅客機で旭川まで飛び、そこから青沼線の軽便鉄道に乗込んだのが、七月はじめの雨催いの午後一時であった。故郷の椙原村は旭川から東北へ三十里ほど入った僻地で、まるで馬車に毛の生えたような軽便鉄道が一本通っているきり、全く文明から掛離れた山間に在った。
駅へ着いたのが午後七時過ぎ、電灯が無くて石油ランプの吊ってある、凡そ時代ばなれのした駅の建物を出ると、――横手のところに爺やの平造が馬車で迎えに来ていた。
「えらく早いお着きでがすな」
「旭川まで旅客機で来たからね、――旅客機、飛行機だよ」
「そんな危ねえ物にお乗んなすって」
「まあ宜い、出掛けよう」
敦夫は馬車へ乗った。――馬車はまだ灰色の残照のある道を、荒地の方へ向ってがたがたと走りだした。
「一体何事が起ったんだ、爺や」
「恐ろしい事が始まっただぞ若旦那さま、奥さまは非業にお亡くなり遊ばすし、大旦那さまも御容態が危ねえだ、――村の者の中にも人死にがあるだよ」
「訳を話して呉れ、訳を」
「殺生谷の鬼火が祟り出しただ、御領分内の者ぁみんな生きた空ぁねえでがすよ」
平造の話を簡単に記そう。