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TORENDIA

橋上

本文約740字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

支那の水郷にかかる橋の上で、哲学者である荘子と恵子の二人が川の中を泳ぐ魚を眺めている。親友でありながら思想的には対立する二人は、魚の心が人間に理解できるかどうかという問いを巡り、激しい論争を展開する。魚の愉悦を語る荘子と、それに対して抽象的な論理で応戦する恵子。二人の哲学者による、互いの認識と独断を突き合う知的な対話を描く。

萩原朔太郎

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🎧 橋上 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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支那のある水郷地方。

白柳が枝をたれて、陽春の長閑かな水が、橋の下をいういうと流れてゐる。

橋の上に一人の男がたたずんでゐる。男はぼんやりと考へながら、川の流れを見つめてゐた。

「どうした? 惠子。」

さういつて一方の男が、後から肩を叩いた。男は詩人哲學者の莊子であつた。

「あれを見給へ。」

二人は默つて、しばらく水面を眺めてゐた。午後の物うげな日光が、橋の欄干にただよつてゐる。支那風の苫船が、白柳の葉影につないであつた。

「何が見える?」

暫らくして莊子が言つた。

「魚さ」

惠子が退屈さうに答へた。惠子は若い哲學者で、辨證論の大家であつた。

「見給へ! 奴があの水の中を泳いでゐる樣子を。實に愉快さうぢやないか。」

「わかるものか。」

莊子が反抗的の態度で言つた。二人は始から敵であつた。個人的には親友であつたけれども、思想上では事々に憎み合つた。趣味が、あらゆる點で反對してゐた。

「人間に魚の心がわかるものか。魚自身にとつてみれば、あれで悲しんでゐるかも知れないのだ。それとも何か、君には魚の心がわかると言ふのか?」

いつも抽象的な論理をこねて、彼の詩的な思想に楯をつく敵に對し、ここで復讐してやつたことが、莊子は嬉しくてたまらなかつた。しかし惠子は負けなかつた。彼は皮肉らしく落付いて返事をした。

「その通り! 僕にはちやんと魚の心がわかつて居るんだ。」

「何だと?」

莊子が呆れて叫んだ。

「獨斷だ! おどろくべき獨斷だ。ふん! いつでも君の議論はそんなものさ。」

「よろしい。」

惠子が靜かに反問した。

「では聞くがね。人間に魚の心がわからないといふならば、どうしてまた、僕の心が君にわかるだらう? 僕は現に、魚の心を知つてると告白してゐる。然るに君は、勝手に僕の心を否定してゐる。どつちが獨斷かね。」

(莊子の一節から)

完

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