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TORENDIA

蝶を夢む

本文約14,100字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

詩集「蝶を夢む」は、詩人の既刊詩集から選にもれた作品や拾遺的な詩を収める。表題作は、夢の中で幼子のように泣く自身の姿や、座敷で翼を広げる蝶を描く。他にも、愛と癒やしを求める寝台へのあこがれ、都会の群集や自然の中を彷徨う心象、逃走や抗いを続ける無頼漢の精神など、詩人の心の内面や憂愁を綴る。本書は二部構成で、比較的近年の作から初期の作までを網羅し、独自の感情と視覚的なイメージを織り交ぜた詩世界を展開する。

萩原朔太郎

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詩集の始に

この詩集には、詩六十篇を納めてある。内十六篇を除いて、他はすべて既刊詩集にないところの、單行本として始めての新版である。

この詩集は「前篇」と「後篇」の二部に別かれる。前篇は第二詩集「青猫」の選にもれた詩をあつめたもの、後篇は第一詩集「月に吠える」の拾遺と見るべきである。即ち前篇は比較的新しく後篇は最も舊作に屬する。

要するにこの詩集は私の拾遺詩集である。しかしながらそのことは、必しも内容の無良心や低劣を意味しない。既刊詩集の「選にもれた」のは、むしろ他の別の原因――たとへば他の詩風との不調和や、同想の類似があつて重複するためや、特にその編纂に際して詩稿を失つて居た爲や――である。現に卷初の「蝶を夢む」「腕のある寢臺」「灰色の道」「その襟足は魚である」等の四篇の如きは、當然「青猫」に入れるべくして誤つて落稿したのである。(もし忠實な讀者があつて、此等の數篇を切り拔き「青猫」の一部に張り入れてもらへば至幸である。)とはいへ、中には私として多少の疑案を感じてゐるところの、言はば未解決の習作が混じてゐないわけでもない。むしろさういふのは、一般の讀者の鑑賞的公評にまかせたいのである。

詩集の銘を「蝶を夢む」といふ。卷頭にある同じ題の詩から取つたのである。

西暦千九百二十三年著者 [#改丁]

[#ページの左右中央]

蝶を夢む    詩集前篇

[#改ページ]

[#ページの左右中央]

この章に集めた詩は、「月に吠える」以後最近に至るまでの作で「青猫」の選にもれた分である。但し内八篇は「青猫」から再録した。

[#改ページ]

蝶を夢む

座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼をひろげる 蝶のちひさな 醜い顏とその長い觸手と 紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。 わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。 しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする 夢はあはれにさびしい秋の夕べの物語 水のほとりにしづみゆく落日と しぜんに腐りゆく古き空家にかんするかなしい物語。

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