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TORENDIA

多忙

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

終わりのない多忙な日々を過ごす筆者が、知人から譲り受けた二葉亭四迷による原稿料催促の手簡をめぐり、自身の状況と重ね合わせる心情を綴る。三十五枚という具体的な枚数が象徴する切迫した日常の苦悩を、二葉亭の書簡を通して滑稽に描く。日々の仕事に追われながらも、手元に届いた古人の遺品に心の支えを見出し、多忙の神髄と向き合いつつ、なおも繰り返される慌ただしい生活の様相をユーモアを交えて提示する。

山本周五郎

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🎧 多忙 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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どうもいそがしくてしようがない。そう云ってもいそがしいのは仕事ではなくてもうひとつの方のことである。その方なら誰だって同じだと云うかも知れないが誰でも同じ程度なら小生としては安穏な時期である。なにしろあっと思うとたんに動きがとれなくなるのだからいやだ。いやそう云うよりも時として安穏なことがあるので、にっちもさっちもいかないのが常態だと云う方が当っているだろう。普通なら仕事の先にはもうひとつの物が約束されているであろうのに、小生の場合にはなにも約束されないのである。仕事をすることは追越されている状態を幾らか縮めるというに過ぎないのである。世に入るを計って出るを制すということがあるが、君などは出るを計って入るを制する部類だと軽蔑されても、敢てこれに抗弁する余地がないのだからいやだ。

なにしろそういう訳でいそがしい。仕事にかかるがいなやもうすでにもうひとつの物が欲しくて喉から手が出る。仕事が届くよりもさきに喉から出た手の方が先方へさきに届く場合の方が多いかも知れない。だから此方もいそがしいが先方でその事務を執る人もいそがしいだろうと思う。仕事の方は遅れに遅れてまるで人を馬鹿にしたように遅れたうえ、もう一方の物は火のついたような騒ぎでせきたてるのだからみんな愛想をつかしているだろうと思うとわれながらいやだ。

さて何にがゆえにこんなことを並べたかというと、小生は或る知人から妙なものを貰ったのである。……これは君に最も相応わしいと思うから進呈する、と云って呉れたのは、古色を帯びた土佐半紙の原稿用紙に達筆でなぐり書きにした一葉の手簡である。

拝啓けふの原稿三十五枚

出来致し候御一覧の上此

分計の原稿料明朝迄に御

届け被下度願上候当用迄

早々

本郷区西片町十番

地ノ十四号

長谷川辰之助

酒井真様

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