TRENDIA CLASSIC

旅館について

山本周五郎

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私は国外旅行の経験はないし、これからもそんなことはしないつもりである。したがって外国の事情にはまったく無知であるが、近ごろの旅館のマンモス化は、世界共通の現象であるのかどうかを知りたいと思う。尤も客のほうもマンモス化で、観光バスをずらっと並べてくりこむ、というのがめだってきた。私の仕事場の下は、三浦半島から湘南地方へゆく、ちょっとした裏街道になっているが、春秋の旅行シーズンになると、少なくて四、五台、多いのになると十台以上の団体観光バスがつながって通る。

――一千名さまはいオッケー。という某旅館のコマーシャルをT・Vで見聞したとき、私はすぐに食中毒のことを考えた。旅行シーズンはまた陽気の変りやすい時期であり、一千名さまの予約を、はいオッケーと受けた旅館の料理場を想像すると、ぞっとさむけがするのは私だけであろうか。もちろんそういう旅館はスタッフ全員が専門家であるから、客に食中毒を起こさせるような手ぬかりはないに相違ない。客のほうでもそこは覚悟ができていて、ちっとやそっとのことでは中らないような解毒剤を用意してゆくのが、常識だそうである。

私はマンモス旅館に泊ったことはない。団体旅行というのもしたことがないし、将来もしないであろうことは確実と云ってよい。にもかかわらず、このように非難めいた拙文を綴るのは、去年の夏、二度にわたってからきめにあったからだ。S社のS誌で拙作のグラビアを載せることになり、担当の若い記者、カメラの人、それに案内役の若い友人という四人づれで、北国街道の今庄から、山中、粟津と写真を撮ってまわった。

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