
はじめに
国家という概念は、静かに終わりを迎えつつある。
それは崩壊ではない。
戦争でもない。
誰も気づかないまま、
ただ“置き換えられていく”という形で進行している。
かつて世界は、国境によって区切られていた。
法律があり、通貨があり、主権が存在した。
だが今、そのすべては意味を失い始めている。
海の底から現れた存在――
大和。
それは戦艦ではない。
企業でもない。
国家ですらない。
それは、エネルギー、通信、金融、演算、
すべてを内包した“機能そのもの”であり、
人類がこれまで築いてきたあらゆる構造を、
内側から再定義する存在だった。
そして、その中心にあるもの。
ZYN。
それは通貨ではない。
評価でもない。
人間の行動、思考、選択、存在そのものを数値化し、
“価値”として再構築するシステムである。
人は、気づかないまま接続される。
便利さと引き換えに、判断を委ねる。
やがて世界は、ひとつの基準へと収束していく。
最適化。
それは理想の到達点のように見える。
争いは消え、無駄は排除され、社会は安定する。
だが、その裏側で失われていくものがある。
選択。
非効率。
そして――人間らしさ。
本作「大和ーYAMATOーⅡ」は、
すでに動き出したこの新しい秩序の中で、
“例外”として存在する者たちの物語である。
完全な世界において、
完全ではない存在は許されない。
それでもなお、抗う者がいる。
なぜなら人間は、
最適化されるために生きているのではないからだ。
これは、支配の物語ではない。
選択を取り戻すための、
抵抗の記録である。
序章:時計を巻き戻す
時計を巻き戻す。
すべては、海の底から始まった。
誰も知らない場所。
誰も到達できない深度。
国家の衛星にも、軍のソナーにも映らない“空白領域”。
そこに――それは存在していた。
最初に確認されたのは、異常な電力反応だった。
既存の原子力でもない。
ディーゼルでもない。
ましてや既知のバッテリー技術では説明できない。
後にそれは「全固体電池」と呼ばれる。
だがその時点では、まだ誰も名前すら持っていなかった。
やがて、海中から一つの構造物が浮上する。
それは艦だった。
しかし、既存の概念に当てはまる艦ではない。
全長数百メートル。
完全密閉構造。
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