
はじめに
世界は、すでに変わっていた。
だが、そのことに気づいている者は、まだほとんどいない。
エネルギーは安定し、物流は止まらず、物価は静かに下がり続けている。
人々はそれを「進化」と呼び、歓迎した。
だが、それは違う。
それは――
“置き換え”だった。
誰かが奪ったのではない。
誰かが支配したのでもない。
ただ、静かに。
気づかれないまま。
世界の構造そのものが、別のものへと差し替えられた。
YAMATOが作り上げた新エネルギー。
水素と酸化マグネシウムの循環。
それは発電ではない。
接続だった。
地上の技術は、すでに限界に達していた。
人類はエネルギーを「作る」ことに疲れ、
「どこから来るのか」を考えることをやめていた。
だが――
志布志の海の底で、
その答えに触れてしまった。
見えない供給。
説明できない効率。
そして、反応する“何か”。
それは資源ではない。
技術でもない。
意思に近いものだった。
そして今。
世界は初めて、理解し始める。
これは革命ではない。
これは――
接触だ。
序章:深度430メートル
音が、消えた。
それが最初だった。
潜水艦《くろしお》の内部で、誰もが同時に気づいた。
機械の振動も、海流のざわめきも、すべてが吸い取られたように消えている。
「……あり得ない」
ソナー担当が、思わず呟く。
海は本来、完全な静寂にはならない。
微細な振動が、常に世界を満たしている。
だが今、そこには何もなかった。
「座標、再確認」
艦長の声は低い。
「志布志沖、深度430メートル。誤差なし」
「……前方、照明最大」
光が放たれる。
その瞬間――
全員の呼吸が止まった。
そこにあったのは、海底ではなかった。
“壁”だった。
黒い。
巨大な。
滑らかすぎる構造物。
自然ではない。
人工物とも断言できない。
だが確実に、
**“何かが作ったもの”**だった。
「記録にないぞ……こんなの」
副長の声が震える。
「材質分析、できるか」
「反応がありません……」
「反応がない?」
「電磁も、音波も、吸収されています」
沈黙。
まるで、存在していないかのように。
だが、確かにそこにある。
そのとき。
「……動きます」
ソナー担当の声。
「何が」
「壁の一部が……」
光の中で、黒い表面がわずかに歪む。
開く。
いや――
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