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この物語はフィクションです。登場する人物、町、バス、社は、すべて作者がつくったものです。
一 おばけでいっぱいのバス
その夜の最終バスは、おばけでいっぱいだった。
魔女。
ミイラ。
かぼちゃの頭。
シーツをかぶった幽霊。
座席のあちこちで、あやしい影が、がたごと揺れている。
運転手のゆかりは、ハンドルをにぎりながら、バックミラーをのぞいた。
今夜は、ハロウィンだ。
駅前の広場で、仮装の集まりがあったらしい。
その帰り道の人たちが、最終のバスに、どっと乗りこんできたのだ。
「運転手さん、今日は、ありがとう」
乗るときに、魔女の女の子が言ってくれた。
とんがり帽子の下で、にこにこ笑っていた。
ゆかりは、軽く頭を下げて、ドアを閉めた。
バスは、夜の町を走りだした。
窓の外を、街灯がゆっくり流れていく。
車内は、ざわざわしている。
笑い声。
紙コップの音。
「かぼちゃ頭、前が見えないんだよ」
「見えないなら、脱げばいいじゃん」
「脱いだら、仮装じゃなくなる」
そんな会話が、うしろから聞こえてきた。
ゆかりは、ふと、ミラーの奥に目をとめた。
いちばんうしろの席。
そこに、ひとりだけ、仮装をしていない人が座っていた。
ふつうの、古い上着を着た、小さなおじいさん。
帽子もかぶっていない。
顔に、絵も描いていない。
膝の上に、小さな帳面を一冊、のせている。
ゆかりは、なぜか、ぞくりとした。
どうしてだろう。
ふつうのおじいさんなのに。
ふつうすぎる、というのが、かえって不思議だった。
おじいさんは、ミラーごしに、ゆかりの目を見て、にっこり笑った。
そして、小さな声で、言った。
「今夜は、おばけが多くて、助かるよ。わしも、まぎれこめる」
ゆかりは、思わず、ブレーキを踏みそうになった。
聞こえたはずがない。
バスの中は、にぎやかなのだ。
それなのに、その声は、はっきり、ゆかりの耳に届いた。
「えっ」
声が出た。
「何か、言いましたか」
「いやいや」
おじいさんは、手をひらひらさせた。
「運転、気をつけて」
ゆかりは、前に向きなおった。
胸が、とくとくと鳴っていた。
二 停留所ごとのおばけ
バスは、ひとつ、またひとつ、停留所に止まった。
そのたびに、おばけたちが、降りていった。