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この物語はフィクションです。
雨の十五夜
その村は、山と山のあいだにありました。
朝には白い霧がおり、夜には星がたくさん見えます。
ことはは、その村で、おばあちゃんと二人で暮らしていました。
ことはは九つです。
前歯が一本ぬけたところで、笑うと、すきまから息がすうっと通りました。
その日は、十五夜でした。
ことはは、朝からそわそわしていました。
「おばあちゃん、今夜は月がまんまるだよね。」
ことはは、台所をのぞいて言いました。
おばあちゃんは、団子の粉をこねる手を止めて、にっこり笑いました。
「そうだよ。一年でいちばん月がきれいな晩だと、昔から言われているね。」
「縁側に、すすきを飾ろう。団子も、お山みたいに積もう。」
「はいはい。まず、手を洗っておいで。」
ことはは、ぱたぱたと流しへ走りました。
おばあちゃんの声が、うしろから追いかけてきます。
「走ると、こぼすよ。」
ことはは、くすっと笑いました。
ところが、昼をすぎたころから、空の色が変わりました。
山の上に、灰色の雲が重なってきたのです。
ことはは、縁側に座って、何度も空を見上げました。
「雲、どこかへ行ってくれないかな。」
ひとりごとを言うと、庭の柿の葉に、ぽつん、と雨が落ちました。
ぽつん、ぽつん。
やがて、ざあっと音をたてて、雨が降りだしました。
夕方になっても、雨はやみませんでした。
おばあちゃんは、団子を丸くまとめて、お盆にのせました。
それから、すすきを花びんにさして、座敷の窓のそばに置きました。
「縁側では濡れてしまうからね。今夜は、部屋のなかで月見だよ。」
「でも、月が見えないよ。」
ことはは、くちびるをとがらせました。
おばあちゃんは、何も言わずに、ことはの頭をそっとなでました。
そのとき、玄関の戸が、とんとんと鳴りました。
「こんばんは。」
元気のいい声がしました。
隣の家の男の子、そうたでした。
そうたは、ことはより一つ年上で、いつも栗色の髪をはねさせています。
大きな傘から、ぽたぽたと雫がたれていました。
「母さんが、これを持っていけって。」
そうたは、ふかしたさつまいもの包みを差し出しました。
「ありがとう。あったかいね。」