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あかりの言葉をおぼえた夜 ~岬の灯台と、最後の見回りの晩~

本文約12,300字 ・ 読了時間 約25分

野々宮 遥

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🎧 あかりの言葉をおぼえた夜 ~岬の灯台と、最後の見回りの晩~ / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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この物語はフィクションです。登場する人物、島、灯台、船の名前は、すべて作者がつくったものです。

一 渡し船の最後の便

秋の終わりの夕方だった。

わたしは、小さな渡し船の、いちばん後ろの席にすわっていた。

足もとには、道具の入った重い鞄がある。

中には、機械をしらべるための道具と、チェックの項目を書いた手帳が入っている。

船に乗っているのは、わたしのほかに、買い物帰りのおばあさんが一人だけだった。

おばあさんは、島の手前の小さな港で降りていった。

その先は、わたしと船頭さんだけになった。

「あんた、灯台へ行くんだろう」

船頭さんが、前を向いたまま言った。

「はい。今夜、見回りに行きます」

「そうかい。今夜が最後だものな」

わたしは、返事に困った。

最後、というのは、少し言い方がちがう。

あしたから、その灯台がなくなるわけではない。

光は、これまでどおり毎晩ともる。

ただ、島に人が泊まってあかりを見ることは、今夜でおしまいになる。

あしたからは、遠くの事務所で、機械が送ってくる数字を見て守ることになる。

そのための最後のしらべものが、わたしの仕事だった。

光る機械は正しく動くか。

電池はじゅうぶんか。

遠くへ送る知らせは、ちゃんと届くか。

一つずつ見て、手帳に丸をつけていく。

わたしは二十五歳で、この仕事について、まだ二年とすこしだった。

「あの灯台はな、おれのじいさんの代から見てきた」

船頭さんは、ゆっくり舵をまわしながら言った。

「夜に船を出す連中は、みんなあの白い光をたよりにしてきたんだ」

「はい」

「人がいなくなっても、光はあるんだろう」

「あります。機械は、よく働きますから」

「そうか。ならいいんだ」

船頭さんは、それきり黙った。

でも、さみしそうな声に聞こえた。

わたしは、何か言いたくなった。

けれど、言葉が出てこなかった。

わたしは、人の気持ちをうまく言葉にするのが苦手だ。

数字なら、すぐに読める。

人の声は、読むのに時間がかかる。

海の色が、少しずつ暗くなっていった。

水平線のあたりが、うすい橙色に光っている。

空の上のほうは、もう紺色だった。

波は、おだやかだった。

ただ、風が冷たく、潮のにおいがいつもよりつよかった。

島が近づいてきた。

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