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TORENDIA

煙管

本文約6,400字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

加賀藩主・前田斉広は、権勢の誇示として金無垢の煙管を愛用し、登城のたびに周囲の注目を集めることに満足していた。ある日、御数寄屋坊主の河内山宗俊がその煙管を拝領したいと願い出て、斉広はこれを贈る。その後も家臣団による煙管の材質変更などの騒動を経て、斉広はふたたび金無垢の煙管を持つようになるが、誰一人として拝領を求めなくなる。かつての威光が消え去ったことに気づき、斉広は次第に追い詰められていく様子を描く。

芥川龍之介

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🎧 煙管 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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1 / 8

一

加州石川郡金沢城の城主、前田斉広は、参覲中、江戸城の本丸へ登城する毎に、必ず愛用の煙管を持って行った。当時有名な煙管商、住吉屋七兵衛の手に成った、金無垢地に、剣梅鉢の紋ぢらしと云う、数寄を凝らした煙管である。

前田家は、幕府の制度によると、五世、加賀守綱紀以来、大廊下詰で、席次は、世々尾紀水三家の次を占めている。勿論、裕福な事も、当時の大小名の中で、肩を比べる者は、ほとんど、一人もない。だから、その当主たる斉広が、金無垢の煙管を持つと云う事は、寧ろ身分相当の装飾品を持つのに過ぎないのである。

しかし斉広は、その煙管を持っている事を甚だ、得意に感じていた。もっとも断って置くが、彼の得意は決して、煙管そのものを、どんな意味ででも、愛翫したからではない。彼はそう云う煙管を日常口にし得る彼自身の勢力が、他の諸侯に比して、優越な所以を悦んだのである。つまり、彼は、加州百万石が金無垢の煙管になって、どこへでも、持って行けるのが、得意だった――と云っても差支えない。

そう云う次第だから、斉広は、登城している間中、殆どその煙管を離した事がない。人と話しをしている時は勿論、独りでいる時でも、彼はそれを懐中から出して、鷹揚に口に啣えながら、長崎煙草か何かの匂いの高い煙りを、必ず悠々とくゆらせている。

勿論この得意な心もちは、煙管なり、それによって代表される百万石なりを、人に見せびらかすほど、増長慢な性質のものではなかったかも知れない。が、彼自身が見せびらかさないまでも、殿中の注意は、明かに、その煙管に集注されている観があった。そうして、その集注されていると云う事を意識するのが斉広にとっては、かなり愉快な感じを与えた。――現に彼には、同席の大名に、あまりお煙管が見事だからちょいと拝見させて頂きたいと、云われた後では、のみなれた煙草の煙までがいつもより、一層快く、舌を刺戟するような気さえ、したのである。

二

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