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TORENDIA

温泉だより

本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

温泉町に滞在する語り手が、土地の大工である萩野半之丞にまつわる出来事を回想する。巨漢で人の好い半之丞は、金を得るために死後の解剖を条件に契約を交わし、その前金を「青ペン」と呼ばれる達磨茶屋の女、お松に注ぎ込む。靴も買えなくなるほど困窮しながらも、半之丞はお松に執着し、滑稽で悲哀を帯びた日々を送る。やがて半之丞は湯の中で姿を消し、残された遺児が父の面影を留めて成長する様子が描かれる。

芥川龍之介

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🎧 温泉だより / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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……わたしはこの温泉宿にもう一月ばかり滞在しています。が、肝腎の「風景」はまだ一枚も仕上げません。まず湯にはいったり、講談本を読んだり、狭い町を散歩したり、――そんなことを繰り返して暮らしているのです。我ながらだらしのないのには呆れますが。(作者註。この間に桜の散っていること、鶺鴒の屋根へ来ること、射的に七円五十銭使ったこと、田舎芸者のこと、安来節芝居に驚いたこと、蕨狩りに行ったこと、消防の演習を見たこと、蟇口を落したことなどを記せる十数行あり。)それから次手に小説じみた事実談を一つ報告しましょう。もっともわたしは素人ですから、小説になるかどうかはわかりません。ただこの話を聞いた時にちょうど小説か何か読んだような心もちになったと言うだけのことです。どうかそのつもりで読んで下さい。

何でも明治三十年代に萩野半之丞と言う大工が一人、この町の山寄りに住んでいました。萩野半之丞と言う名前だけ聞けば、いかなる優男かと思うかも知れません。しかし身の丈六尺五寸、体重三十七貫と言うのですから、太刀山にも負けない大男だったのです。いや、恐らくは太刀山も一籌を輸するくらいだったのでしょう。現に同じ宿の客の一人、――「な」の字さんと言う(これは国木田独歩の使った国粋的省略法に従ったのです。)薬種問屋の若主人は子供心にも大砲よりは大きいと思ったと言うことです。同時にまた顔は稲川にそっくりだと思ったと言うことです。

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