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TORENDIA

東海道五十三次

本文約13,700字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

風俗史を研究する夫と、有職故実家を父に持つ妻の二人は、結婚後、旧い街道の面影を求めて東海道を辿る旅に出る。道中、各地の歴史的風情に触れ、古きを愛する人々との邂逅を重ねながら、二人は古典的な旅を慈しむ。年月が経ち、夫がかつて旅先で出会った画家・作楽井との縁が再燃する中で、夫は自身の探究心や時代と共に変化する街道への想いに向き合う。これは、旧時代の情緒を尊ぶ夫婦が東海道の歴史と変遷を巡り、世代を繋ぐ物語を綴る。

岡本かの子

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風俗史専攻の主人が、殊に昔の旅行の風俗や習慣に興味を向けて、東海道に探査の足を踏み出したのはまだ大正も初めの一高の生徒時代だったという。私はその時分のことは知らないが大学時代の主人が屡々そこへ行くことは確に見ていたし、一度などは私も一緒に連れて行って貰った。念の為め主人と私の関係を話して置くと、私の父は幼時に維新の匆騒を越えて来たアマチュアの有職故実家であったが、斯道に熱心で、研究の手傅けのため一人娘の私に絵画を習わせた。私は十六七の頃にはもう濃く礬水をひいた薄美濃紙を宛てがって絵巻物の断片を謄き写しすることも出来たし、残存の兜の錣を、比較を間違えず写生することも出来た。だが、自分の独創で何か一枚画を描いてみようとなるとそれは出来なかった。

主人は父の邸へ出入りする唯一の青年といってよかった。他に父が交際している人も無いことはなかったが、みな中年以上か老人であった。その頃は「成功」なぞという言葉が特に取出されて流行し、娘たちはハイカラ髷という洋髪を結っている時代で虫食いの図書遺品を漁るというのはよくよく向きの変った青年に違いなかった。けれども父は

「近頃、珍らしい感心な青年だ」と褒めた。

主人は地方の零落した旧家の三男で、学途には就いたものの、学費の半以上は自分で都合しなければならなかった。主人は、好きな道を役立てて歌舞伎の小道具方の相談相手になり、デパートの飾人形の衣裳を考証してやったり、それ等から得る多少の報酬で学費を補っていた。かなり生活は苦しそうだったが、服装はきちんとしていた。

「折角の学問の才を切れ端にして使い散らさないように――」

と始終忠告していた父が、その実意からしても死ぬ少し前、主人を養子に引取って永年苦心の蒐集品と、助手の私を主人に譲ったのは道理である。

私が主人に連れられて東海道を始めてみたのは結婚の相談が纏まって間もない頃である。

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