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TORENDIA

半七捕物帳

本文約26,000字 ・ 読了時間 約52分

あらすじ(AIが作成しました)

明治の初め、老探偵半七は丸多という油屋から絵馬収集に熱狂する主人についての相談を受ける。この主人は絵馬の偽物を掴まされ、それを巡る事件に巻き込まれていた。半七は絵馬屋の大津屋重兵衛やその周辺の人間関係から事件の構図を読み解く。折しも江戸で大規模な地震と爆発が発生し、混乱するなか、半七は偽物工作に関与した重兵衛を追いつめ、危険な捕物を展開する。事件の渦中で登場人物たちの運命が翻弄される様子を描く。

岡本綺堂

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一

これも明治三十年の秋と記憶している。十月はじめの日曜日の朝、わたしが例によって半七老人を訪問すると、老人は六畳の座敷の縁側に近いところに坐って、東京日日新聞を読んでいた。老人は歴史小説が好きで、先月から連載中の塚原渋柿園氏作『由井正雪』を愛読しているというのである。半七老人のような人物が歴史小説の愛読者であるというのは、なんだか不似合いのようにも思われるが、その説明はこうであった。

「わたくしは妙な人間で、江戸時代の若いときから寄席の落語や人情話よりも講釈の修羅場の方がおもしろいという質で、商売柄にも似合わないとみんなに笑われたもんですよ。それですから、明治の此の頃流行の恋愛小説なんていうものは、何分わたくし共のお歯に合わないので、なるべく歴史小説をさがして読むことにしています。渋柿園先生の書き方はなかなかむずかしいんですが、読みつづけているとどうにか判ります。殊に今度の小説は『由井正雪』で、わたくし共にもお馴染の深いものですから、毎朝の楽しみにして読んでいます」

それが口切りで、けさは由井正雪のうわさが出た。老人は商売柄だけに、丸橋忠弥の捕物の話などもよく知っていた。それから縁をひいて、老人は更にこんなことを云い出した。

「あの正雪の絵馬はどうなりましたかね」

「正雪の絵馬……。どこにあるんですか」

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