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TORENDIA

半七捕物帳

本文約16,700字 ・ 読了時間 約34分

あらすじ(AIが作成しました)

安政年間の江戸で、夕暮れに甘酒を売り歩く正体不明の老婆が噂される。老婆とすれ違った者が怪病に倒れ、蛇のような姿で苦しむ不可解な事件が多発した。町中が蛇の祟りと恐れる中、八丁堀同心から捜査を命じられた半七は、怪異の背景にある人間模様と地方の伝承に潜む真実を解き明かしていく。本作は、迷信と現実が交錯する江戸の奇談を、老練な捕物名人の語りを通じて描き出す。

岡本綺堂

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一

「また怪談ですかえ」と、半七老人は笑った。「時候は秋で、今夜は雨がふる。まったくあつらえ向きに出来ているんですが、こっちにどうもあつらえむきの種がないんですよ。なるほど、今とちがって江戸時代には怪談がたくさんありました。わたくしもいろいろの話をきいていますが、商売の方で手がけた事件に怪談というのは少ないものです。いつかお話した津の国屋だって、大詰へ行くとあれです」

「しかし、あの話は面白うござんしたよ」と、わたしは云った。「あんな話はありませんか」

「さあ」と、老人は首をかしげて考えていた。「あれとは又、すこし行き方が違いますがね。こんな変な話がありましたよ。これはわたくしにも本当のことはよく判らないんですがね」

「それはどんなことでした」と、わたしは催促するように云った。

「まあ、待ってください。あなたはどうも気がみじかい」

老人は人をじらすように悠々と茶をのみはじめた。秋の雨はびしゃびしゃというような音をたてて降っていた。

「よく降りますね」

外の雨に耳をかたむけて、あたまの上の電燈をちょっと仰いで、老人はやがて口を切った。

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