星あかり
本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
相州西鎌倉の妙長寺で寝起きする医学生は、ある夜、寺を出て墓地や由井ヶ浜の海岸を独り彷徨い歩く。夜露に濡れ、何ものかに見られているような不安に苛まれながら砂浜へ辿り着くと、打ち寄せる波の力に身体を翻弄され、難破船の残骸にすがってようやく寺へ引き返す。疲弊しきって本堂の蚊帳へ戻った彼は、そこで眠る自分の姿を目の当たりにし、言いようのない恐怖の中で母の名を唱えて正気を保とうとする。
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もとより何故という理はないので、墓石の倒れたのを引摺寄せて、二ツばかり重ねて台にした。
その上に乗って、雨戸の引合せの上の方を、ガタガタ動かして見たが、開きそうにもない。雨戸の中は、相州西鎌倉乱橋の妙長寺という、法華宗の寺の、本堂に隣った八畳の、横に長い置床の附いた座敷で、向って左手に、葛籠、革鞄などを置いた際に、山科という医学生が、四六の借蚊帳を釣って寝て居るのである。
声を懸けて、戸を敲いて、開けておくれと言えば、何の造作はないのだけれども、止せ、と留めるのを肯かないで、墓原を夜中に徘徊するのは好心持のものだと、二ツ三ツ言争って出た、いまのさき、内で心張棒を構えたのは、自分を閉出したのだと思うから、我慢にも恃むまい。……
冷い石塔に手を載せたり、湿臭い塔婆を掴んだり、花筒の腐水に星の映るのを覗いたり、漫歩をして居たが、藪が近く、蚊が酷いから、座敷の蚊帳が懐しくなって、内へ入ろうと思ったので、戸を開けようとすると閉出されたことに気がついた。
それから墓石に乗って推して見たが、原より然うすれば開くであろうという望があったのではなく、唯居るよりもと、徒らに試みたばかりなのであった。
何にもならないで、ばたりと力なく墓石から下りて、腕を拱き、差俯向いて、じっとして立って居ると、しっきりなしに蚊が集る。毒虫が苦しいから、もっと樹立の少い、広々とした、うるさくない処をと、寺の境内に気がついたから、歩き出して、卵塔場の開戸から出て、本堂の前に行った。
然まで大きくもない寺で、和尚と婆さんと二人で住む。門まで僅か三四間、左手は祠の前を一坪ばかり花壇にして、松葉牡丹、鬼百合、夏菊など雑植の繁った中に、向日葵の花は高く蓮の葉の如く押被さって、何時の間にか星は隠れた。鼠色の空はどんよりとして、流るる雲も何にもない。なかなか気が晴々しないから、一層海端へ行って見ようと思って、さて、ぶらぶら。