秘密
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
十六歳のお須美をはじめとする少女たちの世界は、大人には理解不能な「秘密」で満ちている。そこでは、何かを問われても理由を説明する必要はなく、黙って微笑むことが美しい掟とされる。お須美は学校の友人とともに、誰にも明かさない大切な物を地中に埋め、秘密を共有する。大人たちが論理的な答えを求める一方、少女たちは夢の国という独自の領域を築き、その不可解な美しさと内面世界を静かに守り続けていく様子を描く。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一体世の中に、何故? ときかれて、何となればと答の出来る様なことは、ごくつまらない事に違ひない。
机にも脚が四本ある、犬にも足が四本ある。何故、犬には歩けて、机には歩けないか?
こんなことに答が出来たとて、おもしろくもなんともない。
けれど、私は何故に生れたらう? とさうきいて御覧なさい。知つてゐる人は言はないし、知らない人は答はしない。それゆゑにおもしろいのです。富士山が一万三千尺あらうとも、ないやがら瀑布が世界第一であらうとも、そんなことは少しもおもしろくない。私達の知らぬことが世の中には、まだどんなに沢山あることだらう。それからまだこの宇宙には世界の人達が今迄に知つた事よりももつともつと沢山の知らない事があるに違ない、けれどそれは土の世界のことである。
うら若い少女達の夢の国では、すべてが心から心へ話されるのである。何故? ときかれて答へられる様なつまらない事は一つもないのである。
「須美さん。あなたはまあどうしたといふのだらうねえ、これを御覧なさい、お正月の晴衣の袖をこんなに汚点だらけにしてさ」
母様はお須美の小袖を畳みながら言ふのでした。母様はおつ母様である。おつ母様はお須美の様な若い娘ではないのである。母様も曾ては若い娘であつた。しかし若い娘の頃の事は忘れてしまつてゐらつしやる。それだもの若い娘の心持がおわかりになる筈はなかつた。ましてお須美が人知れぬ泪を袖にこぼした事を御存じの筈がない。泪とさへいへば悲しく流れるとばかり、世間では思つてゐらつしやらうが、少女達の夢の国では、嬉しいにつけ、かなしいにつけ、くやしいにつけ、なつかしいにつけ、わけもなくこぼれるのです。
どうしたといふの? といふ母様の問に、何故ならば、と答へられることはない。お須美は、黙つて微笑んでゐた。
「何がをかしいの」
何がをかしいのでもない。そんな時に、黙つて微笑んでゐることが夢の国を、より美しく、より楽しいものにする掟であつた。微笑ほど安全な答がどこにあらう。さうする事によつて、夢の国は少しも犯されず、知らずにただうら若い少女だけが、永遠に占領することが出来るのであつた。
「あなたは幾歳だと御思ひだえ?」